第53話 茉莉香姫
文字数 590文字
予想していたよりすんなりと話がまとまると、隼人は茉莉香姫に案内されて庭に出た。
海に面した高台に建つ城からは、曽我水軍の本拠地である港がよく見え、絶えず波の音が聞こえてくる。
「もう少し早い時期でしたら、秋の花が咲いていたのですが、だいぶ枯れてしまいましたわ」
わずかにまだ花をつけている萩に手にふれながら、姫が残念そうに話す。
「隼人さまには美しい庭をご覧になっていただきたかったのに」
「季節は移ろっているのですから、仕方ありません」
「そうですわね。嘆いてみても詮ないことですわね」
茉莉香姫は口をつぐんでうつむいた。眼に涙がたまってこぼれ落ちそうになっている。
「姫、いかがされました?」
隼人がのぞきこむと、姫はあわてて目もとを手でぬぐった。
「何でもございません。ただ……」
「ただ?」
「詮なきことなのに、やはり考えずにはいられませんの。どうか笑わずにお聞きくださいね。茉莉香は隼人さまの花嫁になりとうございました」
細い声で告げると、姫は泣き顔を見られないように隼人から顔をそむけた。
ふと隼人は思った。
もし藤音との縁組がなかったら、自分はこの愛らしい姫を娶 り、曽我水軍の後継者となっていたかもしれない。
藤音には決して聞かせられない話だが。
海に面した高台に建つ城からは、曽我水軍の本拠地である港がよく見え、絶えず波の音が聞こえてくる。
「もう少し早い時期でしたら、秋の花が咲いていたのですが、だいぶ枯れてしまいましたわ」
わずかにまだ花をつけている萩に手にふれながら、姫が残念そうに話す。
「隼人さまには美しい庭をご覧になっていただきたかったのに」
「季節は移ろっているのですから、仕方ありません」
「そうですわね。嘆いてみても詮ないことですわね」
茉莉香姫は口をつぐんでうつむいた。眼に涙がたまってこぼれ落ちそうになっている。
「姫、いかがされました?」
隼人がのぞきこむと、姫はあわてて目もとを手でぬぐった。
「何でもございません。ただ……」
「ただ?」
「詮なきことなのに、やはり考えずにはいられませんの。どうか笑わずにお聞きくださいね。茉莉香は隼人さまの花嫁になりとうございました」
細い声で告げると、姫は泣き顔を見られないように隼人から顔をそむけた。
ふと隼人は思った。
もし藤音との縁組がなかったら、自分はこの愛らしい姫を
藤音には決して聞かせられない話だが。