優劣をつけたがる

文字数 548文字

 人を選別することや等級をつけることを
 唾棄すべきことと感じることが多いのに
 わたしはわたしでことさらに優劣をつけたがる
 それは好きなものに関してだ
 たとえば音楽
 この音楽はあの音楽よりも深みがあるな
 どちらも好きではあるけれど
 そんなふうに考えると、低い方に位置づけられた音楽を気軽に聴きづらくなる
 これも好きだけど、でも、これを聴くならあっちを聴いた方が……
 そんなためらい
 そのためらいは必要なのだろうか
 そして、高い方に位置づけた音楽は音楽で、これは素晴らしい音楽なのだから、聴くのにちょっと心構えがいるな、なんて考えて
 結局どちらも聴かなかったり
 わたしはぼんやりした人間なのに、頭の中はことさらに忙しい
 そしてその忙しさの大半は、どうでもいいような、くだらないことにあくせくしていて、なくてもいいようなためらいを生み出してしまう
 細かな差異なんてどうでもいい、どうせどれも一緒だろ、などという、好みや趣味を否定するような粗雑さは断固として嫌だが
 このためらい
 この内面の、優劣をつけたがる癖
 好きなものに触れることへの余計な障害
 煩わしい
 
「量に依存する価値観を信ずることは出来ない。質に依存する価値観のほうがより正しいと思はれる。併し価値観はいつも卑しい」
(『初期ノート』吉本隆明)
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