名前を忘れそうな夜に

文字数 317文字

 名前を忘れそうな夜に
 バケツ一杯のぼくの霊魂
 蛇口にキスした悪霊の真似事
 おれってこんなかたちしてたっけ
 わたしってこんなに震えてたっけ
 夜に空がなくてもだれも気にしない
 カーテンを閉めて目を瞑るだけなら
 名前を忘れそうな夜は霊魂が酸化する音がする
 静けさに耳が腐蝕する恐怖がある
 なにも理由がないのに胸が苦しくなるのなら
 寿命の告知だけがその焦燥を解決する気がする
 名前を忘れそうな夜は思考がひらがなになる
 ひらがなで書かれた履歴書が身近になる
 ぼくの霊魂は文字に書けない
 バケツにたまったまま揺れている
 砂糖のような五十音が沈殿している
 ぼくの名前と霊魂は携帯電話がなかった時代のようにすれ違う
 午前零時に待ち合わせたはずなのに
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み