雨の音、天井

文字数 389文字

 雨の音が聞こえていて
 雨は見ていない
 天井を見ている

 天井を見ながら想像している
 この雨のなか
 夜遅く
 傘もささずに
 歩いている人を

 その人はどこに向かっているのだろう
 寒くないのだろうか
 靴下が濡れて気持ち悪いだろうか
 歩きながら何度も顔を拭うのだろうか
 ポケットのスマホが水浸しにならないか気にしているのか
 以前にも雨のなかをこんなふうに歩いたっけ、と懐かしい思い出を儚んでいるのか
 その思い出の雨の日はちょうどだれかの葬儀の日だったり
 恋人と思っていた人が待ち合わせに来なかったとか
 それでいっそう雨の感触が意味ありげに感じられて
 その感触をふと思い出しながら歩いていて
 こうしていままったく関係のない天井をただ眺めているだけの人間から勝手に想像されたりもしている

 雨もその人も見ていない
 天井を見ている
 雨の音が聞こえていて
 その人がどこにたどり着くのかは思いつかない
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