静かだったね、きょうは

文字数 341文字

 静かだったね、きょうは
 数字と無縁で
 欲も見えず
 無心に歩き、無心に話せた
 雨が降るかと持ち出した傘は
 無用の気遣いに終わったけれど
 役に立たないものの重みは
 杖なる友としてきみを助けた
 いい日だったね、きょうは
 無気力に沈み
 憂鬱と溶け合う
 そればかりが日々ではないと
 自分に告げるには
 あまりにも頼りなく些細であったかもしれないけれど
 こわばった気分が少しはほぐれて
 死ぬ哀しみを思い出さなかった
 過ぎ去ってしまったね、きょうは
 またきっときみは囚人の代弁者のように
 自由の牢獄が晴天によって
 沈黙という猿轡を強いるかのように
 語るべき言葉を語らない日々を
 日常という名前の隠れ蓑によって
 自らに許しつづけるのだろう
 無意味だったね、きょうは
 その無意味に救いがあるかのように
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