人がこんなにいるのに荒野

文字数 313文字

 咳き込んでいる
 あらゆる人の善意が
 芳しくない
 倫理の空気の(かよ)()

 人がこんなにいるのに荒野
 当然のごとく認識次第
 どれだけの人間が認識によって荒野
 わざわざ荒野に自分を棄てていることか

 草が生えるのを
 見たことがない
 花が咲くのを
 驚けたことがない
 いつもいつのまにか
 自分の知らないところで
 なにごとかが生まれて咲いて散っている

 子どもと子どもがぶつかって
 一瞬、呆然とした表情を浮かべた後
 堰を切ったように泣き始める
 あの一瞬の遅れ
 痛みを自覚するまでの

 子どもではなくなった人は
 どれだけ遅れることか
 どれだけあの一瞬に踏みとどまってしまうことか
 痛みをとらえられず、泣くことを得ず
 どれだけ呆然と荒野に佇むことか
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