これから出会う音楽

文字数 394文字

 数年前までは
 バッハの魅力を知らなかった
 そのことだけを考えても
 生き延びる価値は
 あるのかもしれない
 これから出会うなにかに
 期待したっていいのかもしれない
 星の数ほどある
 生きたくない理由
 これから出会うであろうおぞましさを
 無視するわけでは
 ないけれど

 処刑寸前のソクラテスが
 フルートでひとつの曲を練習していて
 いまさらなんの役に立つ?
 と訊かれて
 死ぬまでにこの曲を習いたいのだ
 と答えた
 これが実話なのか創作なのかは知らないが
 なんとも味わい深い話だ
 ソクラテスがバッハを聴いたら
 なんと言っただろう

 たとえ瀕死の状態にあっても
 現存在のなかにはいつも
 まだ現実的になっていないなにかがなお残存している
 不断の未完結が存在している
 ハイデガーがそんなことを
 語っているのだとか
 意味はいまだによくわからないが
 死に瀕していても
 音楽がこころを動かす余地は
 まだあるのだろうか
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