雑想

文字数 504文字

 音楽を聴きながら詩を書いていて
 それはすべてに失礼な気がした
 音楽にも
 言葉にも

 自分の沈黙に耐えられないのは
 記憶の発作に襲われるから

 こんなにひとりの人間について考えるのは
 常軌を逸しているとしか思えない
 執着に終わりがない
 記憶がいつまでも患部に突き刺さる

 三人の人間の音楽が救い
 ひとりは生きている
 ひとりは数年前に死んだ
 ひとりは数百年前に死んで
 二人の演奏者によって知り
 その演奏者もひとりは生きていて
 ひとりは生まれる前に死んだ
 ところで三人の音楽の共通点は
 余白の優しさ

 だれかの救いになるような言葉を
 自分が書くこともあるのだろうか
 それは能力ではなく
 契機の問題だから

 詩は空にある
 詩のなかにはない
 そう言った詩人もいた
 きっと言葉が嫌になったのだ
 空に比べると
 言葉は人を救わない
 そんな日もある
 うつむいたまま

 ひとりの人間の言葉が救い
 人間だったかはわからない
 少し曖昧
 あらゆる善なる言葉の後ろに
 その存在の言葉が透けて視える
 と
 頑迷な信者なら言うだろう
 眼を閉じながら

 いまも音楽がそこに
 やがて死ぬ身の消えゆく夜に
 いまも音楽がそこに
 震える空気に言葉が追いつかないまま
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