いま、ひとりの作家に熱中していて

文字数 318文字

 いま、ひとりの作家に熱中していて
 もとから好きだったけど
 いまは誰よりも興味がある
 もう死んでいる
 もう亡くなっている
 水のなかをもがくような文体
 笑っていいのかわからない異様な滑稽さ
 戦争の死、近親の死、伴侶の記憶の死
 すべてに異様な視線を注いで
 笑いながらはにかんでいるような
 晩年まで異様なまま書きつづけた
 言葉が遅れてやってくるような理解しがたさ
 その向こうから透ける優しさなのかわからない異様な光
 おめおめと生きて、なにかいいことがあるかといえば
 わからないものをわからないまま
 その魅力だけはわかるようになったことは
 生きていてよかったといえそうだ
 いま、ひとりの作家に熱中していて
 その言葉を読むために生きている気がする
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