書物はこころを持たないから

文字数 225文字

 人の手によって書かれたもので、人に理解し得ないものはありません
 そんな言葉を思い出した
 いまならなんでも読める気がするな
 不遜な自信
 場違いな錯覚
 もちろん、読めるというだけ
 理解
 理解なんてできない
 隣の人間のことすら理解できない
 それはそうだ
 書物はこころを持たないから
 こころの楽譜にすぎないから
 音楽のように生起しては消えてゆく生身の人間という眼前の現象なんて
 理解できない
 だからこそ書物はありがたい
 人がいなくても
 音楽を想像できるから
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