命日

文字数 289文字

 命日は
 静かに外れよう
 生者の列から
 日常の輪から
 人の死は思い出す価値がある
 そのとき感じた痛みは守るべき義務がある
 それを手放したときわたしは消える
 わたしはわたしが嫌いだが
 嫌うことさえ出来なくなったときにわたしは終わる
 消えることも終わることもどうでもよくなる
 わたしはもうほとんどのことがどうでもいい
 この痛みだけが
 つなぎとめている最後のよすが
 だから人の死んだ日に
 すべてが虚しくなるほど生を疑うことは
 正しい
 この世のすべてがはりぼてに見えることは
 正しい
 日常のそこかしこに放置された亀裂と陥没と血だまりを見つめるのは
 正しい
 命日
 喪失の冷たさ
 暗く冴えて
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