動け、死体

文字数 271文字

 記憶の死体は道端で黒ずんでいる
 自らの過去で侵されている
 アスファルトを肌とするだれかに
 干からびた祈りを捧げている
 死の倒置法
 汚物めいた檄文(げきぶん)
 自我の残り香は腐臭よりもひどい
 だれが個人たりえたか
 借りものの言葉
 借りものの衝動
 きみ、おまえ、あなた、それ
 呼びかけの遷移(せんい)が死体としての認知に役立つとき
 自分がそれと呼ばれる物体であることを過褒(かほう)と信じて恥ずかしく思うなら
 固まった血を砕きながら動け
 死体が動くことを神は禁じなかった
 その意味を知っているのはおまえだけだ
 それと呼ばれ得るおまえだけだ
 動け、死体
 自分を納得させてから死ね
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