灰色の犬

文字数 407文字

 幼いとき
 キャンプ場で知り合った
 灰色の犬
 一日だけの友だち
 勝手につけた名前で呼んだ
 その名はもう思い出せない
 キャンプ場を立ち去るとき
 見送っていた犬の顔
 寂しさという感情を
 勝手につけた名前と同じように
 勝手に見出だして胸を痛めた
 寂しかったのはこちらの方か
 過ぎ去った年月から(かんが)みるに
 あの犬はもう死んでいる
 いまのいままで忘れていた
 なぜ思い出したのかもわからない
 子どもの頃は、野犬に遭遇することが多かったな
 体当たりされて、恐怖で硬直したり
 鎖につながれていると侮って(はや)し立てていたら
 先端が切れていて追いまわされたり
 あの犬たちも、もう死んでいる
 知らない場所で
 知らない顔で
 知らない一生と知らない死で
 かつて知り合った人のうち、何人が死んだのだろう
 どれだけの死を知らないのだろう
 あの(なつ)いてくれた灰色の犬は
 奇跡的な長命でもないかぎり死んでいる
 それだけは確かで
 それだけを思い出したかった
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