10-2. 竜に乗る者 ⑤
文字数 990文字
そして、青年からすべての〈呼 ばい〉が断ち切られた。おそろしいほどの沈黙が竜とライダーたちを襲った。
その光景を真上から見下ろしていたダンダリオンは、ありったけの力をかき集めて周囲の酸素を一気に遮断した。目に見えるのは炎が消えていく様子だけだが、火を起こすよりもはるかに強い負荷がかかる。肌が灼け、熱を察知した身体が黒い蔦の紋様で覆われていく。金髪が照り返しで赤く染まり、猛烈になびいた。
アルファメイルのテリトリーに入る本能的な恐怖で、シュノーはすくみあがっていた。それでも、震えながら、〈呼 ばい〉に応えて力を出し続けている。ダンダリオンは〈呼 ばい〉を使ってそっと老竜の目を閉じてやった。
「おまえには苦労をかけるな」
決心して、炎の中心近くに降りたった。上空よりも効率よく消火できるはずだが、制御に失敗すれば焼け死に、運よく成功したとしても、煙に巻かれて死ぬ位置だった。自分は愚かなのだろうと考えることはこれまでも何度もあったが、死の間際までそう痛感するはめになるとは思っていなかった。
息子を失い、同胞とはなれ、二度と戻るまいと思っていた祖国に足を踏み入れてまでやろうと決意したことも果たせず、いまここで死ぬ。
死神のような目がくるりと向けられ、あっと思う間もなくシュノーが尾で薙 ぎ払われ、炎で包まれた。だが、もはや救助にまわす余力はない。〈呼 ばい〉の道から竜の断末魔の苦しみと熱が逆流してくる。皮膚の上で、黒い紋様がのたうつように暴れまわっていた。
ダンダリオンはその通路を閉じることなく、痛みと苦しみが襲ってくるにまかせた。
(あと少し)
アーダルの目が見開かれ、ごうごうと燃えさかっていた炎が力を失いはじめたのはそのときだった。
デイミオンが、あの黒竜の王が、ようやく竜との〈呼 ばい〉を取り戻しはじめたのだ。
あと数秒。
内臓が灼 け、口からなにかが噴きだしてくる。熱さで生理的な涙が浮かび、炎のなかに飛び散った。
〈不死 の王〉が炎につつまれていくあいだにも、まるで目に見えない毛布がそっと大地を覆うように、炎が消えて乳白色の煙があたりをめぐりはじめた。
竜たちの声が静まりはじめ――……
ダンダリオンが最後に頭に思い描いたのは、おそらく、老竜のことだった。竜の御国 についてのごく短い祈りが、開いたままの口のなかに残った。
だが、その祈りを聞いた竜族はどこにもいなかった。
その光景を真上から見下ろしていたダンダリオンは、ありったけの力をかき集めて周囲の酸素を一気に遮断した。目に見えるのは炎が消えていく様子だけだが、火を起こすよりもはるかに強い負荷がかかる。肌が灼け、熱を察知した身体が黒い蔦の紋様で覆われていく。金髪が照り返しで赤く染まり、猛烈になびいた。
アルファメイルのテリトリーに入る本能的な恐怖で、シュノーはすくみあがっていた。それでも、震えながら、〈
「おまえには苦労をかけるな」
決心して、炎の中心近くに降りたった。上空よりも効率よく消火できるはずだが、制御に失敗すれば焼け死に、運よく成功したとしても、煙に巻かれて死ぬ位置だった。自分は愚かなのだろうと考えることはこれまでも何度もあったが、死の間際までそう痛感するはめになるとは思っていなかった。
息子を失い、同胞とはなれ、二度と戻るまいと思っていた祖国に足を踏み入れてまでやろうと決意したことも果たせず、いまここで死ぬ。
死神のような目がくるりと向けられ、あっと思う間もなくシュノーが尾で
ダンダリオンはその通路を閉じることなく、痛みと苦しみが襲ってくるにまかせた。
(あと少し)
アーダルの目が見開かれ、ごうごうと燃えさかっていた炎が力を失いはじめたのはそのときだった。
デイミオンが、あの黒竜の王が、ようやく竜との〈
あと数秒。
内臓が
〈
竜たちの声が静まりはじめ――……
ダンダリオンが最後に頭に思い描いたのは、おそらく、老竜のことだった。竜の
だが、その祈りを聞いた竜族はどこにもいなかった。