8-3. フィルの苦悩・来襲 ③

文字数 710文字

「捕縛か殲滅か、ですって?」

 リアナは鋭く問い返した。まるでそこから〈()ばい〉が伝え聞こえてくるとでもいうように、マリウスの腕をつかんでいる。二人はまだ図書室にいて、マリウスへのフィルの報告を聴いていた。
「捕縛が優先するに決まっているわ。こちらには三人もライダーがいて、しかも全員がデーグルモールとの戦闘に慣れているんだから」

「殲滅だ」
 マリウスが言う。「ガエネイスの手先を、ニザランの領地に入れることは許さない」
 リアナはマリウスの腕をふりまわして声をはった。「フィル! 聞こえる!? 捕縛よ!」
「私の城で王のような顔をして口をきくのは慎んでもらいたいな、

竜王」リアナの腕をはずそうと苦労しながら、マリウス。「殲滅だ、〈竜殺し(スレイヤー)〉」
「そこはどこなの!? フィル、いま行くわ!」
「私の話を聞いているのか? このきかん坊が」
「たぶん東の望楼(ぼうろう)ね……ちょっと、放してよ!」
「仔ネズミみたいにうろちょろするのはやめろ。いまのおまえは〈ハートレス〉なんだぞ。望楼(ぼうろう)に行ってなにができるというんだ!?」
「なんだっていいわよ、ここでぼんやり座ってて、それこそなにができるっていうの? そっちこそ、父親みたいな口をきくのはやめて」
「おまえは・ここに・いるんだ!」
 おさえつけられようとする腕からリアナは逃げた。マリウスの動きはイニそっくりだったので、簡単だった。
「そうやってもったいぶって、年寄りの神官みたいにいつまでもぶつぶつ呟いてれば!?」そのまま、リアナは大股に出口に向かっていった。
「わたしになにができるのか、そこで突っ立って見ていることね!」
 捨て台詞を吐いて出ていったかつての養い子を、マリウスは口を開けて見送るしかなかった。

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登場人物紹介

リアナ・ゼンデン

本作の主人公。竜騎手(ライダー)にあこがれる平凡な田舎少女だったが、竜たちの王となる運命が待っていた。

すなおで活発、売られたケンカは買うタイプ。

養父の教育もあり、なかなかの政治手腕を見せることも。

デイミオン・エクハリトス(デイ)

フィルに続き里にリアナを迎えに来た竜騎手。彼女の次の王位継承権を持つ。

王国随一の黒竜アーダルの主人(ライダー)。

高慢な野心家で、王位をめぐってリアナと衝突するが……。

群れを率いるアルファメイルで、誇り高く愛情深い男でもある。

フィルバート・スターバウ(フィル)

襲撃された里からリアナを救いだした、オンブリアの元軍人。彼女をつねに守るひそかな誓いを立てている。

ふだんは人あたりよく温厚だが、じつは〈竜殺し〉〈剣聖〉などの二つ名をもつ戦時の英雄。

リアナに対しては過保護なほど甘いものの、秘密をあかさないミステリアスな一面ももつ。

レーデルル(ルル)

リアナが雛から育てた古竜の子ども。竜種は白で、天候を操作する能力をもつ。

グウィナ卿

五公(王国の重要貴族)の一員で、黒竜のライダー。私生活ではデイ・フィルの愛情深い叔母、二児の母。

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