10-4. 即位式、そして…… ②

文字数 1,165文字

 〈王の間〉は黄色の旌旗(せいき)で彩られていた。

 リアナは竜騎手たちにつきそわれて入場した。上王の入場を告げるラッパの音が響く。彼女はデイミオンのいる最上段より一段低い位置に移動し、その人物が現れるのを待った。
 やがて〈御座所〉の文官、神官たちがあらわれて列をなし、荘厳な音楽とともに、小柄な人影が上段にあらわれた。彼は茶色のくせ毛にあまり似合わないサフラン色の長衣(ルクヴァ)に身を包み、黄と青の竜騎手たちがその後ろにつき従っている。
 素敵なルクヴァなのに、彼の髪の毛はあいかわらずだわ、とリアナはすこしおかしかった。
 貴族と官吏たちが歓迎の拍手を送った。
 国王デイミオンが壇上に上がり、副神官長の案内に従い、低くよく通る声で即位を認める文章を読みあげはじめた。
「……そしてここに、新たな神官長、また竜の声を聴く〈黄金賢者〉として、竜王デイミオンはセキエル家のエピファニーを任命する」
 聴衆たちが彼の言葉を待っている。
 太陽と月が配置された錫杖を持ち、ファニーはごく短い宣言をした。出生率の低下や蔓延する灰死病への対策についての〈御座所〉の考えと今後の計画を現実的に述べたことが、不安の多い聴衆に安心感を与えたようだった。
 宣言の締めくくりに、〈黄金賢者〉はこう言った。
「竜なき後のオンブリアに備えるため、僕は、竜をもたない竜騎手(ライダー)になる」

 結局、エピファニーはのちに仔竜を育てることとなり、『竜をもたない竜騎手(ライダー)』という文言は果たせなくなるのだが、それはまた別の物語になる。
 ともあれ、宣言が終わると、ファニーは気楽な調子で手を打った。「さあ! これで聖職者の用意ができた。もうひとつの式をはじめよう」


 竜王デイミオンは、竜騎手団の濃紺の長衣(ルクヴァ)姿で、額に簡易冠を嵌めて立っていた。最近の重々しい黒衣ではないせいなのか、ついに式を挙げることへの喜びからなのか、いつものしかつめらしい表情ではなく、年齢相応のハンサムな青年に見える。
 騎手団長のハダルク卿が、リアナの手をとって檀上までのごく短い通路をエスコートした。
 そうして新しい〈黄金賢者〉の目の前に、背の高い青年と、白いドレスの少女が並び立った。
 エピファニーは聖句を持ちだして長々と説教をしたりはしなかった。二人に向かってうなずいてみせ、「エクハリトス家のデイミオン。ゼンデン家のリアナ」と呼びかけた。
 そして、高く明るい声で尋ねた。
(きた)るべき春、新しいよろこびの繁殖期(シーズン)を、また次の春を、またその次の春を、永遠に竜のつがいとして過ごしたいと願うか?」
「はい」男女の声が重なった。
「では、そうあるように。……名を呼び交わしなさい」
 二人は微笑みながら見つめあい、お互いの名を呼んだ。
「……リアナ」
「デイミオン」
 そして、王が金の冠を少女の額に嵌め、そこにうやうやしく口づけると、わっと歓声が上がった。
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登場人物紹介

リアナ・ゼンデン

本作の主人公。竜騎手(ライダー)にあこがれる平凡な田舎少女だったが、竜たちの王となる運命が待っていた。

すなおで活発、売られたケンカは買うタイプ。

養父の教育もあり、なかなかの政治手腕を見せることも。

デイミオン・エクハリトス(デイ)

フィルに続き里にリアナを迎えに来た竜騎手。彼女の次の王位継承権を持つ。

王国随一の黒竜アーダルの主人(ライダー)。

高慢な野心家で、王位をめぐってリアナと衝突するが……。

群れを率いるアルファメイルで、誇り高く愛情深い男でもある。

フィルバート・スターバウ(フィル)

襲撃された里からリアナを救いだした、オンブリアの元軍人。彼女をつねに守るひそかな誓いを立てている。

ふだんは人あたりよく温厚だが、じつは〈竜殺し〉〈剣聖〉などの二つ名をもつ戦時の英雄。

リアナに対しては過保護なほど甘いものの、秘密をあかさないミステリアスな一面ももつ。

レーデルル(ルル)

リアナが雛から育てた古竜の子ども。竜種は白で、天候を操作する能力をもつ。

グウィナ卿

五公(王国の重要貴族)の一員で、黒竜のライダー。私生活ではデイ・フィルの愛情深い叔母、二児の母。

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