10-3. 和平協定と兄弟ゲンカ ⑤

文字数 1,117文字

 リアナは背筋が寒くなった。どうやらデイミオンはまた、部下の黒竜の支配権を奪って使っているらしい。「わたしのために争わないで」などと間の抜けたことを言って目立ちたくはなかったが、このままではせっかく復興したケイエが再び炎に包まれかねない。
 決意をこめて息を吸い、大声で叫んだ。
「デイミオン! あれだけの被害を起こして、まだ懲りてないの!? フィルも! ルルの力をくだらないことに使わないで!!!」
 野次馬たちがいっせいにリアナのほうを見た。「まぁ、上王陛下があそこに」「陛下のご寵愛を賭けて、二人の男が決闘を……」その好奇心に満ちたまなざしに、彼女はすぐに後悔した。止めたりせずに、世界が滅びたりケイエが再燃するのを見ていたほうがましだった。死ぬほどいたたまれない。

 二人の男は、信じられないことにそっくりな仕草で舌打ちした。
 しかし竜術の使用についてはやはり思うところがあったと見えて、そのまま剣での試合に切り替わり……
「やあ、デイミオン王、なかなかの剣さばき! 体格と体重では完全に押し勝っているね!」と、ファニー。
「まずはあっさり懐につっこんで陛下の剣を流した。でもあの男はこっからがえげつないんですよ!」と、テオ。
 
  ♢♦♢

 二人の男は抜け目なく間合いをはかりあった。
 体格で上まわるデイミオンの剣は重く、何度も受けとめると疲労しそうだった。続く一撃を、フィルは後ろに跳ぶようにしてかわす。
「……ッ!?」
 と、爆発音がした。地面に足を取られるような感覚があり、とっさに足下を見てしまう。その隙をついて、デイミオンの剣が再び横にないでくる。バランスを大きく崩したが、かろうじて避け、畳みかけるような攻撃に何とか持ちこたえた。
 劣勢の剣に集中しながら、同時に竜術が使えるはずがない。あらかじめ、決まった箇所で発動するタイプのものを仕掛けたのだろう。と、すると、デイミオンの間合いに入っていたほうが安全だ。
 そう考えて、フィルは一気に間合いを詰めようとする。が、その意図がわかるのかデイミオンの剣は思ったより素早く、フィルを寄せつけない。
「くそッ」
 小さく舌打ちすると、向かってくるデイミオンの剣を受けると見せて大きく右に避けた。そして自分の剣を投げ捨てるとそのままの勢いでデイミオンの腕に手刀を落とす。デイミオンの手から剣が落ちた。
「なっ!?」

 驚いた様子の兄に声もかけず、ほとんど振り向きざまにその顔を殴った。
「……やったな」デイミオンが唾を吐いた。
「剣の間合いじゃ竜術にはまる。この距離なら、危なくて作動させられないだろう?」
 すぐにデイミオンも反撃してくる。顔、と見せかけてボディへの一撃、しかしフィルはかろうじて避けた。
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登場人物紹介

リアナ・ゼンデン

本作の主人公。竜騎手(ライダー)にあこがれる平凡な田舎少女だったが、竜たちの王となる運命が待っていた。

すなおで活発、売られたケンカは買うタイプ。

養父の教育もあり、なかなかの政治手腕を見せることも。

デイミオン・エクハリトス(デイ)

フィルに続き里にリアナを迎えに来た竜騎手。彼女の次の王位継承権を持つ。

王国随一の黒竜アーダルの主人(ライダー)。

高慢な野心家で、王位をめぐってリアナと衝突するが……。

群れを率いるアルファメイルで、誇り高く愛情深い男でもある。

フィルバート・スターバウ(フィル)

襲撃された里からリアナを救いだした、オンブリアの元軍人。彼女をつねに守るひそかな誓いを立てている。

ふだんは人あたりよく温厚だが、じつは〈竜殺し〉〈剣聖〉などの二つ名をもつ戦時の英雄。

リアナに対しては過保護なほど甘いものの、秘密をあかさないミステリアスな一面ももつ。

レーデルル(ルル)

リアナが雛から育てた古竜の子ども。竜種は白で、天候を操作する能力をもつ。

グウィナ卿

五公(王国の重要貴族)の一員で、黒竜のライダー。私生活ではデイ・フィルの愛情深い叔母、二児の母。

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