10-3. 和平協定と兄弟ゲンカ
文字数 1,068文字
火は収まりつつあった。
リアナとレーデルルが延焼を防ぎ、ケイエから駆けつけたエサルとその竜が消火を引き継いだ。黒竜たちの部隊もようやく統制を取り戻し、その後はみるみる火が消し止められていった。完全に作業が終わるまでに三日間ほどかかったが、ついに、オレンジ色の夜明けとともにもはや炎のない静かな朝が訪れた。
だが、アエディクラ側で犠牲になった兵士たちが生き返ることはないし、焼かれた山がもとの景観を取り戻すのには長い時間がかかるだろう。そして、黒竜アーダルはこんこんと眠りつづけている。
エンガス卿みずからが治療に当たったが、デイミオンとリアナはどちらも〈呼 ばい〉の酷使以外に目立った傷もなく、無事だった。二人は、ひと晩じっくり相談して、やはり灰死病とその治療法についてニザランで解明されている事実をエンガス卿に伝えることにした。〈鉄の王〉は喜ばないだろうが、それでもいい、とリアナは思った。養父を愛しているが、いまではそれよりも強くオンブリアの人々を愛するようになったからだ。そして、自分には彼らを助ける義務があると思うからだった。王であるかどうかにはかかわらず。
焼け跡のなかから救出されたとき、〈不死 の王〉ダンダリオンは全身を火傷しており、すでに助かる見込みはなかった。ニエミ一人に見守られながら、明け方に息を引きとったとのことだった。
「ダンダリオン様は、難民となった残りの同胞たちのことを奏上するおつもりでした」と、ニエミはためらいがちに説明した。彼らがニザランで安住できるように、おそらくは自分の首をかけてケイエにやってきたのだ、と。
探していた父親は彼かもしれない、と聞いたリアナは、複雑な思いを処理するのに苦労した。
「本当に父親だったかなんて、もう確認のしようもないわ」
リアナの言葉に、デイミオンは「そうだな」と同意した。
「だが、もうほんの数えるほどしかいない同族を助けるために、重傷を負った身体でケイエにやってきた。そして、自分のものでもない竜の暴走を止めるために力を使い果たして死んだ。……オンブリアにとって宿敵ではあったが、私には到底できないことだ」
「デイミオン……」
「やはり、どことなくおまえに似ていたよ」
亡きがらをどうしてほしいのか、彼は一度も口にしたことがなかったとニエミは語った。焼いて灰になったものが少しずつ彼らにわたり、そしてリアナに残された。
リアナはそれをどうしたらいいのか、そもそも悲しんでいいのかどうかすらわからずにいた。
ただ、いずれそのことを考えることのできる時間がくることを祈った。
リアナとレーデルルが延焼を防ぎ、ケイエから駆けつけたエサルとその竜が消火を引き継いだ。黒竜たちの部隊もようやく統制を取り戻し、その後はみるみる火が消し止められていった。完全に作業が終わるまでに三日間ほどかかったが、ついに、オレンジ色の夜明けとともにもはや炎のない静かな朝が訪れた。
だが、アエディクラ側で犠牲になった兵士たちが生き返ることはないし、焼かれた山がもとの景観を取り戻すのには長い時間がかかるだろう。そして、黒竜アーダルはこんこんと眠りつづけている。
エンガス卿みずからが治療に当たったが、デイミオンとリアナはどちらも〈
焼け跡のなかから救出されたとき、〈
「ダンダリオン様は、難民となった残りの同胞たちのことを奏上するおつもりでした」と、ニエミはためらいがちに説明した。彼らがニザランで安住できるように、おそらくは自分の首をかけてケイエにやってきたのだ、と。
探していた父親は彼かもしれない、と聞いたリアナは、複雑な思いを処理するのに苦労した。
「本当に父親だったかなんて、もう確認のしようもないわ」
リアナの言葉に、デイミオンは「そうだな」と同意した。
「だが、もうほんの数えるほどしかいない同族を助けるために、重傷を負った身体でケイエにやってきた。そして、自分のものでもない竜の暴走を止めるために力を使い果たして死んだ。……オンブリアにとって宿敵ではあったが、私には到底できないことだ」
「デイミオン……」
「やはり、どことなくおまえに似ていたよ」
亡きがらをどうしてほしいのか、彼は一度も口にしたことがなかったとニエミは語った。焼いて灰になったものが少しずつ彼らにわたり、そしてリアナに残された。
リアナはそれをどうしたらいいのか、そもそも悲しんでいいのかどうかすらわからずにいた。
ただ、いずれそのことを考えることのできる時間がくることを祈った。