9-3. 黒竜VS飛行船 ⑤

文字数 960文字

「ガエネイス王!」
 煙のせいでほとんど視界がきかず、目にしみて涙が出る。その状態で、リアナは必死に声を張った。「攻撃はやめて! よけいに竜を興奮させてしまう……」

 だが、砲撃音で耳がおかしくなってしまったのか、自分でもどれくらいの声が出ているのかわからなかった。
 ふらついた少女を支えながら、フィルが近づき、小声で尋ねた。「レーデルルは近くにいますか?」
 リアナははっとした。
「ええ。ルルとの〈()ばい〉は弱いけど、ある。でも目くらましはかけられない……」
「やはり、まだ修復途中なんだ。無理に竜術を使わないで。危険です」
「でも、フィル……」
 ニザランで〈竜の心臓〉を取りだしたあと、飛竜の背の上でも心臓はずっとフィルの体内にあった。デーグルモールに扮装して船に入るために、直前に彼の身体から取りだしたが、そうやって入れ替えること自体、これがはじめてのぶっつけ本番だったのだ。
 しかも、心臓が戻ってわかったのは、いまだデーグルモールの状態から脱していない、という事実でもあった。
 フィルは周囲をさっと見まわした。
「混乱しているあいだに、

しましょう。この船は格好の標的になっている」
「でも、それより、心配なの」さらに衝撃と横揺れがつづいた。
「縁に近づかないでください!」フィルが叫んだ。

。フィル、デイミオンがアーダルの制御をうしなうのは、これが三回目なのよ。アーダルには言葉も通じない。これが――」
 言いかけたとき、なにか大きなものが視界いっぱいに広がり、ぶつかってきた。人間、と思うまもなく背後に吹きとばされる。かろうじて手すりにもたれる形になったものの、ぶつかってきた人間はその勢いで手すりを越え、甲板から真っ逆さまに落ちていった。
 よろめきながら身を起こすと、中央部にいた兵士たちがあちこちに倒れているのが見えた。どうやら、砲弾の一部がどうやってか跳ねかえって着弾したらしい。あわてて駆けよってきたフィルが手をのばし、つかまろうとしたリアナはまたも吹きとばされた。着弾したのか、こちら側が撃った衝撃なのかすらわからない。爆風で身体が浮いて、危ないと思ったときにはもう手だけでぶらさがっていた。その手をフィルがつかみかけて――

 指一本の距離で間に合わず、たがいの手が空をつかんだ。リアナはそのまま落ちていった。
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登場人物紹介

リアナ・ゼンデン

本作の主人公。竜騎手(ライダー)にあこがれる平凡な田舎少女だったが、竜たちの王となる運命が待っていた。

すなおで活発、売られたケンカは買うタイプ。

養父の教育もあり、なかなかの政治手腕を見せることも。

デイミオン・エクハリトス(デイ)

フィルに続き里にリアナを迎えに来た竜騎手。彼女の次の王位継承権を持つ。

王国随一の黒竜アーダルの主人(ライダー)。

高慢な野心家で、王位をめぐってリアナと衝突するが……。

群れを率いるアルファメイルで、誇り高く愛情深い男でもある。

フィルバート・スターバウ(フィル)

襲撃された里からリアナを救いだした、オンブリアの元軍人。彼女をつねに守るひそかな誓いを立てている。

ふだんは人あたりよく温厚だが、じつは〈竜殺し〉〈剣聖〉などの二つ名をもつ戦時の英雄。

リアナに対しては過保護なほど甘いものの、秘密をあかさないミステリアスな一面ももつ。

レーデルル(ルル)

リアナが雛から育てた古竜の子ども。竜種は白で、天候を操作する能力をもつ。

グウィナ卿

五公(王国の重要貴族)の一員で、黒竜のライダー。私生活ではデイ・フィルの愛情深い叔母、二児の母。

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