10-1.あなたを信じてる ②
文字数 1,060文字
落ちる瞬間、なぜか数をかぞえていた。
胸のなかで1、2、3とととなえて、そして、「落ちている」という理解が追いついた。竜に乗ったときのような、内臓がもちあがるような感覚が数秒つづく。でも、それはすぐに消えた。その後に感じたのは耳もとのゴーッという轟音と、風だった。風が噴きだす場所に身を投げだしたかのような、強い風圧が全身を包む。飛行船が真上に見えたかと思うと、あっというまに遠のき、そして落ちていく。
落下より、風圧をより強く感じる。服が風をはらんで、痛いほどにバタバタとはためいた。
そういえば、前にもこんなことがあったっけ。アーダルの背から、デイミオンと一緒に落ちて――あのときは、そう、レーデルルが一緒だった。竜に乗るより、落ちていることのほうが多いライダーなんて、お笑いだ。
風の力を強めて、クッションを作り、落下速度を緩める――何度もやってきた竜術を、もう一度やってみようと集中する。風はなんとか起こったが、あまりに弱々しく、落下が緩まったとは思えなかった。
(力が弱すぎる!)
アーダルから落ちたとき、あの竜術を教わる前でさえ当たり前のようにできたことが、病気を境にできなくなっている。うすうす気づいてはいたが、いまこの時に感じるのはおそろしかった。
パニックを起こしかけたそのとき、やや上空に豆粒のようなものが見えた。とっさにひらめいて、そのときの自分にもなんとかできることを――つまり、その豆粒と自分のあいだの空気を減らしておたがいの落下速度を調節することをこころみた。
その豆粒は自分を追ってきたかと思うと、みるみるフィルバートの姿になった。髪がはためいているので彼も落ちているのだとわかるが、落下速度が追いつくということが不思議で、こんなときなのになぜかおかしかった。そういえば、フィルはいつも平気な顔で落ちているわ。アーダルから落ちる直前にも、彼はまるで階段を一歩下りるだけのような動作で、空中に足を踏みだしていたっけ。
「フィル」
仰向けに落ちていっているので、かろうじてそう口が動いた。
でも、そう思っただけかもしれない。あまりにも風が強いから、フィルが口を開いたのかどうかはわからなかった。ただ、彼の声が聞こえたように思った。
「リアナ」
彼の手が自分の手首をつかんだ。今度こそ届いた。
「俺を信じていますか? いまでも?」
こんなときなのに、どうしてそんなことを聞くの?
あまりに真剣な声なので、なんだかおかしい気分になった。笑ってみせたかもしれない。そして、彼も笑ったかもしれない。
「永遠に」
胸のなかで1、2、3とととなえて、そして、「落ちている」という理解が追いついた。竜に乗ったときのような、内臓がもちあがるような感覚が数秒つづく。でも、それはすぐに消えた。その後に感じたのは耳もとのゴーッという轟音と、風だった。風が噴きだす場所に身を投げだしたかのような、強い風圧が全身を包む。飛行船が真上に見えたかと思うと、あっというまに遠のき、そして落ちていく。
落下より、風圧をより強く感じる。服が風をはらんで、痛いほどにバタバタとはためいた。
そういえば、前にもこんなことがあったっけ。アーダルの背から、デイミオンと一緒に落ちて――あのときは、そう、レーデルルが一緒だった。竜に乗るより、落ちていることのほうが多いライダーなんて、お笑いだ。
風の力を強めて、クッションを作り、落下速度を緩める――何度もやってきた竜術を、もう一度やってみようと集中する。風はなんとか起こったが、あまりに弱々しく、落下が緩まったとは思えなかった。
(力が弱すぎる!)
アーダルから落ちたとき、あの竜術を教わる前でさえ当たり前のようにできたことが、病気を境にできなくなっている。うすうす気づいてはいたが、いまこの時に感じるのはおそろしかった。
パニックを起こしかけたそのとき、やや上空に豆粒のようなものが見えた。とっさにひらめいて、そのときの自分にもなんとかできることを――つまり、その豆粒と自分のあいだの空気を減らしておたがいの落下速度を調節することをこころみた。
その豆粒は自分を追ってきたかと思うと、みるみるフィルバートの姿になった。髪がはためいているので彼も落ちているのだとわかるが、落下速度が追いつくということが不思議で、こんなときなのになぜかおかしかった。そういえば、フィルはいつも平気な顔で落ちているわ。アーダルから落ちる直前にも、彼はまるで階段を一歩下りるだけのような動作で、空中に足を踏みだしていたっけ。
「フィル」
仰向けに落ちていっているので、かろうじてそう口が動いた。
でも、そう思っただけかもしれない。あまりにも風が強いから、フィルが口を開いたのかどうかはわからなかった。ただ、彼の声が聞こえたように思った。
「リアナ」
彼の手が自分の手首をつかんだ。今度こそ届いた。
「俺を信じていますか? いまでも?」
こんなときなのに、どうしてそんなことを聞くの?
あまりに真剣な声なので、なんだかおかしい気分になった。笑ってみせたかもしれない。そして、彼も笑ったかもしれない。
「永遠に」