9-3. 黒竜VS飛行船 ①

文字数 1,014文字

 モレスクの上空に、オンブリアの古竜部隊が出撃した。

 国境をはさんで向かいのケイエを防衛する本隊からはなれ、アエディクラ側の本隊をたたこうという計画だった。飛竜のほかは、ほぼすべてが黒竜からなる攻撃主体の部隊である。
 その黒竜たちに向かって、ガエネイス王の対竜部隊が砲撃を放った。間近に迫ってくる爆風と轟音に、|竜騎手(ライダー)たちの一部はパニックに陥った。飛竜にまたがる〈呼び手(コーラー)〉たちは身をかわすことに長けているが、古竜は飛竜より大きいぶん動きが遅い。また矢を落とすことはできるが、砲撃のような質量のあるものは竜術で落とすのは難しい。
 さらに、アエディクラ側は騎竜隊も用意していた。小型の竜が多く、オンブリアの見事な竜騎手団にははるかに及ばないが、どんな貧相な格好であれ対空戦が可能であるというだけで脅威になる。それにおそらく竜に乗るのは竜族と人間との混血であると思われた。敵国に(くみ)するとはいえ半分は同胞の血が流れ、〈竜の心臓〉を持っているのだ。より悪いことに、彼らは国境沿いの集落から無理やり連れさられ、兵力として育てられたオンブリアの子どもたちのなれの果てかもしれないのだった。

 砲撃が耳をつんざくような音をたて、古竜たちが負けずと威嚇をはじめた。動物の威嚇は恐怖の裏返しでもある。|竜騎手(ライダー)たちは必死になって自分の竜をおさえようとした。〈()ばい〉でつながったかれらの思念は、たとえるなら地下茎でつながるベリーや竹に似ている。だから意志の伝達にはすばらしい力を発揮するが、パニックに陥った個体がいるとその感情も伝染してしまう。
 羽ばたきと威嚇の鳴き声がひろがる群れを、アルファである黒竜アーダルが一喝した。シューッという警告の声を出しながら、空中を行ったり来たりする。第二の竜(ベータ)であるハダルクの竜が、その後をついていく。

 デイミオンは、自分の群れのことはほとんど忘れかけていたが、命令を待っている竜騎手たちの声を感じて我にかえった。
〔落ちつけ〕彼は眼下につらなる山々を見下ろしながら言った。
〔どれほどの軍隊があり、どんな兵器をもって攻撃されようとも、アーダルの火にはおよばない〕
〔陛下〕副官ハダルクの思念が、一瞬割って入ってきた。〔陛下、これほど近づいては危険です〕
〔おまえたちは下がっていていい。アーダルだけで十分だ〕
 デイミオンはごく当然というように言った。

「さあ、はじめよう」
 そして、見下ろした光景にむかってさっと片腕をふった。
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登場人物紹介

リアナ・ゼンデン

本作の主人公。竜騎手(ライダー)にあこがれる平凡な田舎少女だったが、竜たちの王となる運命が待っていた。

すなおで活発、売られたケンカは買うタイプ。

養父の教育もあり、なかなかの政治手腕を見せることも。

デイミオン・エクハリトス(デイ)

フィルに続き里にリアナを迎えに来た竜騎手。彼女の次の王位継承権を持つ。

王国随一の黒竜アーダルの主人(ライダー)。

高慢な野心家で、王位をめぐってリアナと衝突するが……。

群れを率いるアルファメイルで、誇り高く愛情深い男でもある。

フィルバート・スターバウ(フィル)

襲撃された里からリアナを救いだした、オンブリアの元軍人。彼女をつねに守るひそかな誓いを立てている。

ふだんは人あたりよく温厚だが、じつは〈竜殺し〉〈剣聖〉などの二つ名をもつ戦時の英雄。

リアナに対しては過保護なほど甘いものの、秘密をあかさないミステリアスな一面ももつ。

レーデルル(ルル)

リアナが雛から育てた古竜の子ども。竜種は白で、天候を操作する能力をもつ。

グウィナ卿

五公(王国の重要貴族)の一員で、黒竜のライダー。私生活ではデイ・フィルの愛情深い叔母、二児の母。

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