10-2. 竜に乗る者 ④
文字数 1,094文字
「私が火を止めよう」
〈不死 の王〉が言った。「真上に下ろすが、数秒しか保たせられない。何があってもその間に〈呼 ばい〉を取り戻せ」
「――わかった」
だが、どうやって?
目の前の満身創痍の男に、消火できる目算がありそうには見えなかった。自分にしても同じだった。勝算はなにひとつなかったが、男の言うとおり、そうするしかない。デイミオンは黒竜シュノーの背に膝立ちになって、アーダルとの距離を測った。
「死角にまわって、背の正中線の上から落としてくれ。そこなら、しばらくの間炎に焼かれずに済むはずだ」
シュノーは老獪な動きでそっと巨竜の背に近づいていく。デイミオンが立ちあがり、今度はダンダリオンが膝をついた。
「行け。……行って義務を果たせ、ライダー」
その声を背に受けて、デイミオンは思いきって黒竜の背に飛び降りていく。
(フィルバートは、いつもこういう気分なんだな)
あえて風圧を弱めずに、衝撃が竜に伝わるように着地し、その勢いでごろごろと転がり落ちる。かろうじて背鰭 に捕まり、そのまま腹這いの姿勢で呼びかけをはじめた。
〔アーダル!〕
〔アーダル、俺だ。気づいてくれ!〕
だが、竜の思念はエネルギーの奔流そのもので、いくら呼びかけても流れくだる溶岩に向かって叫んでいるも同じだった。
デイミオンは自分のものだった竜を見下ろした。小さな山のような首筋から細い背鰭 がたなびいているのが見える。この背中に羽毛をつけて歩いていたような頃から育ててきて、気がつくと大陸一のアルファメイルになっていた。おそろしいほどに大きく、この竜を御すなど、到底できないような気になってしまう。
「どうしたら……」
そのとき、声のかぎりに彼を呼ぶのが聞こえた。
「デイミオン!」
「リア!……」
姿はようやく目視できるほど離れているが、声は〈呼 ばい〉ではなく肉声だった。
「アーダル以外の〈呼 ばい〉を、全部断ち切って!」
その意外な言葉に、デイミオンは目を見開いた。
リアナからも、信じられないという彼の表情がかろうじて見えた。彼女は竜術で声を増幅しながらつづけた。
「〈血の呼 ばい〉は
言いながら、リアナにはようやくわかりはじめていた。デイミオンは
すべての力を出しきれば、デイミオンには制御できる。どうか、そうであってほしい。
〈
「――わかった」
だが、どうやって?
目の前の満身創痍の男に、消火できる目算がありそうには見えなかった。自分にしても同じだった。勝算はなにひとつなかったが、男の言うとおり、そうするしかない。デイミオンは黒竜シュノーの背に膝立ちになって、アーダルとの距離を測った。
「死角にまわって、背の正中線の上から落としてくれ。そこなら、しばらくの間炎に焼かれずに済むはずだ」
シュノーは老獪な動きでそっと巨竜の背に近づいていく。デイミオンが立ちあがり、今度はダンダリオンが膝をついた。
「行け。……行って義務を果たせ、ライダー」
その声を背に受けて、デイミオンは思いきって黒竜の背に飛び降りていく。
(フィルバートは、いつもこういう気分なんだな)
あえて風圧を弱めずに、衝撃が竜に伝わるように着地し、その勢いでごろごろと転がり落ちる。かろうじて
〔アーダル!〕
〔アーダル、俺だ。気づいてくれ!〕
だが、竜の思念はエネルギーの奔流そのもので、いくら呼びかけても流れくだる溶岩に向かって叫んでいるも同じだった。
デイミオンは自分のものだった竜を見下ろした。小さな山のような首筋から細い
「どうしたら……」
そのとき、声のかぎりに彼を呼ぶのが聞こえた。
「デイミオン!」
「リア!……」
姿はようやく目視できるほど離れているが、声は〈
「アーダル以外の〈
その意外な言葉に、デイミオンは目を見開いた。
リアナからも、信じられないという彼の表情がかろうじて見えた。彼女は竜術で声を増幅しながらつづけた。
「〈血の
もうない
。あなたがどんなに強い声で呼んでも、わたしも、誰も、壊れたりしない! だから、やって!」言いながら、リアナにはようやくわかりはじめていた。デイミオンは
怖い
のだ。自分の強さと力で周囲を傷つけることを、無意識に恐れている。だから、あの二度の暴走でアーダルを止められなかった。アーダルを制御するほどの力を放出すれば、彼につらなるリアナたちも無事ではいられないからだ。すべての力を出しきれば、デイミオンには制御できる。どうか、そうであってほしい。