第144話 坂の途中【4】

文字数 1,595文字

 僕が上京のための資金を稼いでいた2000年、それから帰郷することになる2004年の、その間は、ライトノベルだけでなく、のちに今のスマートフォン用ソーシャルゲームやアニメに進出することとなる美少女ゲームブランドの創成期だった。
 前にこの小説の別の項で書いた葉鍵の、葉ではなく、鍵の方、つまり〈Key〉の話から始めることにしよう。


 僕の愛器であるギターは、弾き語りに使っているのはTakamine PT-406である。
 このエレアコのギターは廃盤のモデルで、それは木材として貴重なコアウッドの種類のひとつ、ハワイアンコアでつくられているから廃盤になった。
 エレアコとは、アコースティックギターだけど、アンプにシールドコードを挿して音を出すことが出来るギターのことである。
 一方、バンド時代から現在、たまにやっているDTM(デスクトップミュージック)に使用しているのは、グレッチのカントリークラシック2である。
 だが、上京前は、G&Lのテレキャスターを使っていた。
 友人のギンが、Keyの製作したゲーム『AIR』のステッカーをくれたので、しばらくの間、僕はテレキャスターのボディに『AIR』のステッカーを貼っていた。
 それは2001年のことで、AIRの発売は2000年の秋である。
 ギンは1999年に上京し、パソコンの専門学校に通っていた。
 1999年と言えば、Keyの『Kanon』が発売された年である。
 ギンはパソコンの学校にいたのだから、当然流行っていて、Kanonをプレイしている。
 時期的にそうであるだけでなく、〈leaf〉の『ToHeart』などとともに、Kanonは、Keyが2000年に発売したAIRを代表として、〈泣きゲー〉と呼ばれるジャンルを開拓した。
 なので、触れないはずがないのである。
 そういうことで、ギンはAIRを買い、そしてステッカーをくれて、僕はそのステッカーをテレキャスに貼った、という流れであった。
 Keyは、2004年に、アダルトゲームではなく、一般向けのビジュアルノベル作品として、シナリオライターの麻枝准の集大成とも言える『CLANNAD』を発売する。
 実はここから面白いことに、同人音楽の話も出来るのだが、それは、今は割愛しよう。
 今は、美少女ゲームと僕との接点の話だ。
 2000年と言えば、虚淵玄を擁する、同じく美少女ゲームブランドである〈ニトロプラス〉が立ち上げられた年でもある。
 ニトロプラスは、2003年に、同ブランドの美少女ゲームでの代表作になる『沙耶の唄』と『斬魔大聖デモンベイン』を発売している。

 そして極め付けは同人サークル〈TYPE-MOON〉が、2000年の12月にコミックマーケットなどで『月姫』を発売したことだろう。
 TYPE-MOONはそのあと有限会社『ノーツ』を設立、商業ゲームメーカーとして2004年に、『Fate/stay night』を発売した。
 このTYPE-MOONはそれまでほぼ不可能だった「一次創作の同人サークルで売れて、商業化する」ことにほぼ初めて成功して、その後の〈一次創作〉の同人サークルのあり方を変えた、エポックメイキングな出来事をつくったサークルであった。
 それまでは「一次創作は売れない」が同人屋の知るべき鉄則のひとつだったのだ。
 TYPE-MOONは、いや、そのシナリオライターの奈須きのこは、グラフィッカーの武内崇とともに、シナリオ枚数原稿用紙換算5000枚、グラフィックの総数500枚以上という力技、それに加えて、ブームが来ていた美少女ゲームという衣装を身にまとい(いや、脱ぐゲームだけど)、同人の一次創作でも売れるという実績をつくったのだった。

 かくして、僕が東京にいた頃に集中して、東京は今に繋がる、その後の流れをつくる人物たちが頭角を現してきていたのであった。




〈次回へつづく〉
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