第108話 僕の心を取り戻すために【7】

文字数 1,266文字

 井の頭線で僕はタカハシさんと渋谷へ向かう。
 神泉のあたりで電車が地下に潜り、向かい側の窓ガラスに、座っている僕とタカハシさんの姿が映る。
 タカハシさんは、ニコニコしながら、僕に言う。
「収縮率の問題なのですよ」
「収縮率?」
 首をかしげる僕。
 タカハシさんは続ける。
「外国人の男性とセックスをしたことが、わたしはあります。外国人のアレは大きいってよく言うじゃないですか。でも、それもある程度は収縮率の問題ですよ」
「ん? ふぅむ、なるほど」
「外国人のおてぃむてぃむは、通常サイズでも大きいけど、大きくなったときも、そんなに通常サイズと変わらないものです。日本人の男性は、収縮率があって、通常サイズと大きくなったときのサイズが、かなり違います。普段は、小さいひとでも、そのときになれば入らないくらい大きくなるひともいる、ということです」
 トンネルを通るとき独特の、電車が軋む音が大きくなる。
 僕は黙ってタカハシさんという、この高校時代の下級生の女の子の話に、耳を傾けている。
「つまり、るるせ先輩のアレは小さい、とは言いますが、実際は収縮率があるので、悲観することではないのです。むしろ、そのときともなれば大きい部類に入ります」
「…………」
 なんて言えば良いんだろう。
 僕、この娘とそういうことしたことあったっけ?
 酔っぱらったときにでもなにかしたのか、わからん。
 だが、タカハシさんは僕のコンプレックスを解除してくれようとしているのはわかった。
 これはありがたいことだ。
 電車が渋谷駅に着いた。僕らはマークシティを降りて、センター街からスペイン坂を登るのだった。







 シネマライズの前に着く。
 タカハシさんはこれから観る『アメリ』のポスターで笑っている。
 どうしたというのだろうか。
「あははははは。『ア、メソ』って読むのかと思っちゃいましたよー。これ、絶対『メソ』ですよー」
 メソ、とは、『すごいよ! マサルさん』に出てくるマスコットキャラのことだ。
 なるほどな、と頷いた僕は、タカハシさんと映画館シネマライズに入る。

「お手洗いに行ってきまーす」
「はいよー」
 席をキープするために座っている僕。
 お手洗いに行ったタカハシさんを待っていると、女の子が声をかけてきた。
「あの、隣の席、空いてますか」
 美人過ぎて一瞬「空いてるよ!」と言いたくなるがしかし。
「ごめんね、空いてない」
「そうですか」
 そしてしばらく経つと、また違う女の子が、
「席、空いてますか」
 と、言ってくる。
 これは、違う日にナンパに使うのも良いかもしれないな、とぼんやりと思う。
 だが、実行に移さないのが僕の悪いところなのだが。
「お待たせしましたー」
「はいよー」
 と、そんなわけで『アメリ』をタカハシさんと一緒に観る。
 上映が終わったあと、涙目になった僕らは、適当に渋谷で遊んで、帰宅する。
 楽しいデートだった。
 こんな日が続けば良いなぁ、と思うが、そうはならないのが僕の人生で。
 まあ、それをこれから追い追い語っていくことになるのである。
 上京編、本格的にスタートだぜ。



〈了〉
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成瀬川るるせ:語り手

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