第22話 因果交流電燈グレイテストヒッツ【2】
文字数 1,253文字
これを書いている今日から、仕事場のある町では、指定文化財の古民家を使って、〈古民家カフェ〉が始まった。
茶寮、である。
去年の秋頃だったか、古民家レストランをやっていたのだが、今は夏ということで、かき氷などをメインに、食べられる。
インスタグラムに力を入れている企画だからなのか、とにかく初日の今日はお客さんが多かったらしい。
町が活性化されればいいね、とは偽らざる気持ちだ。
この町のカフェで思い出す出来事も多いが、やはり僕に衝撃的だったのは、その町のファミレスでのことだ。
忘れることは不可能な出来事が、あったのである。
☆
高校卒業後。
僕は髪の毛をオレンジ色に染めた。
綺麗なオレンジ色にするために、脱色を数回してから、ヘアマニキュアでオレンジを流し込んだ。
脱色中の金髪や真っ白も良かったが、オレンジは最高だった。
オレンジ色の髪の毛にした頃、僕はカラオケ屋のバイトをしていた。
なかなかに楽しい職場だった。
女性店員もいるが、大学生の、モテるタイプの男性が数人、店員をやっているお店だった。
女性のお客さんが、大学生の店員で〈お目当ての店員〉がいると、キャーキャー騒ぐこともあった。
「ここは安くて簡易型のホストクラブだよね?」
と、言われたこともある。
その店で、僕は人気もなく、黙々と働いていた。
今回は、そのカラオケ屋の話ではなくて。
カラオケ屋でお金が入ったので、国道沿いのファミレスに僕は入った。
奥から歩いてきたウェイトレスが、メニューを持ってきた。
手を伸ばし、メニュー表を掴もうとしたら、僕はウェイトレスから、頬に平手打ちを食らった。
顔を上げ、ウェイトレスを見ると、そのウェイトレスは、僕の知り合いの女の子だった。
僕とその子は、その数ヶ月前まで、身体のお付き合いをしていた女性だったのである。
その、ファミレスのウェイトレスは、平手打ちされた頬をさすっている僕を睨み付けた。
「なんで、あなたはここに来たの!」
ちょっと間を置いてから、僕は返した。
「え? お客だから、かな?」
「帰ってくれる?」
「はい?」
「今すぐ、帰ってくれないかしら?」
「いや、君にそんな権限は……」
「二度と来ないで! 近寄らないで! 帰って、今すぐ!」
女の子はまた、僕に平手打ちをした。
僕は席を立ち、キャッシャーで精算して貰い、そのファミレスをあとにした。
この子のことだから、今度は控え室でウェイトレス服のまま、えっちなことでもしているのかな、と思ったが、僕は阿呆なので、近寄らない、という選択肢を採った。
ウェイトレスには別れを告げて、僕は上京するためのお金を稼ぐ生活に戻る。
なんともやりきれない気持ちだった。
その思い出のファミレスがある町で、今は古民家カフェがスタートし、行ったひとの話を聞くと、店に入るのに一時間半並んだらしい。
大盛況だ。
でも僕は、そういう企画をその町でやっていると、くだんのウェイトレスが怖くて、なかなか行くのがためらわれるのだった。
ヘタレだよ、僕は。
〈次回へつづく〉
茶寮、である。
去年の秋頃だったか、古民家レストランをやっていたのだが、今は夏ということで、かき氷などをメインに、食べられる。
インスタグラムに力を入れている企画だからなのか、とにかく初日の今日はお客さんが多かったらしい。
町が活性化されればいいね、とは偽らざる気持ちだ。
この町のカフェで思い出す出来事も多いが、やはり僕に衝撃的だったのは、その町のファミレスでのことだ。
忘れることは不可能な出来事が、あったのである。
☆
高校卒業後。
僕は髪の毛をオレンジ色に染めた。
綺麗なオレンジ色にするために、脱色を数回してから、ヘアマニキュアでオレンジを流し込んだ。
脱色中の金髪や真っ白も良かったが、オレンジは最高だった。
オレンジ色の髪の毛にした頃、僕はカラオケ屋のバイトをしていた。
なかなかに楽しい職場だった。
女性店員もいるが、大学生の、モテるタイプの男性が数人、店員をやっているお店だった。
女性のお客さんが、大学生の店員で〈お目当ての店員〉がいると、キャーキャー騒ぐこともあった。
「ここは安くて簡易型のホストクラブだよね?」
と、言われたこともある。
その店で、僕は人気もなく、黙々と働いていた。
今回は、そのカラオケ屋の話ではなくて。
カラオケ屋でお金が入ったので、国道沿いのファミレスに僕は入った。
奥から歩いてきたウェイトレスが、メニューを持ってきた。
手を伸ばし、メニュー表を掴もうとしたら、僕はウェイトレスから、頬に平手打ちを食らった。
顔を上げ、ウェイトレスを見ると、そのウェイトレスは、僕の知り合いの女の子だった。
僕とその子は、その数ヶ月前まで、身体のお付き合いをしていた女性だったのである。
その、ファミレスのウェイトレスは、平手打ちされた頬をさすっている僕を睨み付けた。
「なんで、あなたはここに来たの!」
ちょっと間を置いてから、僕は返した。
「え? お客だから、かな?」
「帰ってくれる?」
「はい?」
「今すぐ、帰ってくれないかしら?」
「いや、君にそんな権限は……」
「二度と来ないで! 近寄らないで! 帰って、今すぐ!」
女の子はまた、僕に平手打ちをした。
僕は席を立ち、キャッシャーで精算して貰い、そのファミレスをあとにした。
この子のことだから、今度は控え室でウェイトレス服のまま、えっちなことでもしているのかな、と思ったが、僕は阿呆なので、近寄らない、という選択肢を採った。
ウェイトレスには別れを告げて、僕は上京するためのお金を稼ぐ生活に戻る。
なんともやりきれない気持ちだった。
その思い出のファミレスがある町で、今は古民家カフェがスタートし、行ったひとの話を聞くと、店に入るのに一時間半並んだらしい。
大盛況だ。
でも僕は、そういう企画をその町でやっていると、くだんのウェイトレスが怖くて、なかなか行くのがためらわれるのだった。
ヘタレだよ、僕は。
〈次回へつづく〉