第143話 坂の途中【3】
文字数 1,200文字
ミヤダイが、教室の窓から南大沢の自然を長い間、眺めている姿に、僕は驚いた。
普通に思考すれば、そりゃ自然も観るだろう、と思いそうだが、そのときの僕には驚きだった。
一方、僕自身も、人間関係でボロボロにされて、限界だったので、〈自然〉に心惹かれた。
限界であるなか、講義を聴講していたので、それもあって、心が打たれたのだ、たぶん。
「自然……か」
頷いた僕は、講義が終わるといつも南大沢のキャンパスの近くにあるホームセンターに通うのが恒例となった。
ここには植木や花壇用の植物や、熱帯魚などが売られている。
まずはここに通って、植物や熱帯魚の名前を覚えよう、そう思ったのだ。
だが、ここでもまた驚きがあった。
僕は花や木の名前が、全く覚えられなかったのだ。
酷いくらい、覚えられない。
まだ、ミヤダイが話すルーマンの話の方が覚えられるくらいだ。
そして僕は、この年齢になるまで、自然と触れ合って来なかった自分を悔いる気持ちが大きかった。
なんで田舎に住んでいたのに、植物の名前すら覚えようとしなかったのだろうか。
僕は田舎に帰ったら、〈人間以外〉のなにかと関わりたいな、と思った。
実際に僕はその後、帰郷してから七年間、ゴルフ場の芝刈りと草刈りをして過ごすことになる。
それでも、草木の名前は、あまり覚えられなかったけれども。
☆
話は前後するが、ミヤダイのところに来たのは2004年で、その前の年、僕は第8回スニーカー大賞の、大賞を受賞したばかりで金色の帯が付いている状態の『涼宮ハルヒの憂鬱』を購入し、読んでいる。
実は2003年っていう年は「一体なにがあったのだ?」というくらい、今で言うところのライトノベルの名作がボコボコ誕生した年であった。
谷川流、成田良悟、おかゆまさき、川上稔、有川浩、壁井ユカコ、ハセガワケイスケ、桜庭一樹、冲方丁といった人物が続々と現れた年だった。
ミヤダイ側に話を戻すと、新海誠監督の映画『ほしのこえ』は2001年で、『雲のむこう、約束の場所』が、2004年である。
また、僕が東京から去るのと入れ替わるかのように、宇野常寛が雑誌『PLANETS』をシモキタのヴィレッジ・ヴァンガードなどで売ることになり上京を果たし現れ、勢力を拡大させ、僕が田舎に引っ込んだときに彼は全国区のランナーとなった。
あと、外せないのは東浩紀が2004年のコミケで出した同人誌である『美少女ゲームの臨界点』だろう。
東浩紀が責任編集を務めたビジュアルノベル評論誌で、2004年夏と冬のコミックマーケットで販売された、伝説の同人誌である。
僕は、〈始まりの時期〉に東京を去っていってしまったことになる。
僕を裏切ったカケの張り付いたへらへらした「ざまあみろ」という笑い声が、今も聞こえそうだ。
僕はリヴェンジ出来ずに、人生を終えるのだろうか。
それはともかく、話は、まだ続く。
〈次回へつづく〉
普通に思考すれば、そりゃ自然も観るだろう、と思いそうだが、そのときの僕には驚きだった。
一方、僕自身も、人間関係でボロボロにされて、限界だったので、〈自然〉に心惹かれた。
限界であるなか、講義を聴講していたので、それもあって、心が打たれたのだ、たぶん。
「自然……か」
頷いた僕は、講義が終わるといつも南大沢のキャンパスの近くにあるホームセンターに通うのが恒例となった。
ここには植木や花壇用の植物や、熱帯魚などが売られている。
まずはここに通って、植物や熱帯魚の名前を覚えよう、そう思ったのだ。
だが、ここでもまた驚きがあった。
僕は花や木の名前が、全く覚えられなかったのだ。
酷いくらい、覚えられない。
まだ、ミヤダイが話すルーマンの話の方が覚えられるくらいだ。
そして僕は、この年齢になるまで、自然と触れ合って来なかった自分を悔いる気持ちが大きかった。
なんで田舎に住んでいたのに、植物の名前すら覚えようとしなかったのだろうか。
僕は田舎に帰ったら、〈人間以外〉のなにかと関わりたいな、と思った。
実際に僕はその後、帰郷してから七年間、ゴルフ場の芝刈りと草刈りをして過ごすことになる。
それでも、草木の名前は、あまり覚えられなかったけれども。
☆
話は前後するが、ミヤダイのところに来たのは2004年で、その前の年、僕は第8回スニーカー大賞の、大賞を受賞したばかりで金色の帯が付いている状態の『涼宮ハルヒの憂鬱』を購入し、読んでいる。
実は2003年っていう年は「一体なにがあったのだ?」というくらい、今で言うところのライトノベルの名作がボコボコ誕生した年であった。
谷川流、成田良悟、おかゆまさき、川上稔、有川浩、壁井ユカコ、ハセガワケイスケ、桜庭一樹、冲方丁といった人物が続々と現れた年だった。
ミヤダイ側に話を戻すと、新海誠監督の映画『ほしのこえ』は2001年で、『雲のむこう、約束の場所』が、2004年である。
また、僕が東京から去るのと入れ替わるかのように、宇野常寛が雑誌『PLANETS』をシモキタのヴィレッジ・ヴァンガードなどで売ることになり上京を果たし現れ、勢力を拡大させ、僕が田舎に引っ込んだときに彼は全国区のランナーとなった。
あと、外せないのは東浩紀が2004年のコミケで出した同人誌である『美少女ゲームの臨界点』だろう。
東浩紀が責任編集を務めたビジュアルノベル評論誌で、2004年夏と冬のコミックマーケットで販売された、伝説の同人誌である。
僕は、〈始まりの時期〉に東京を去っていってしまったことになる。
僕を裏切ったカケの張り付いたへらへらした「ざまあみろ」という笑い声が、今も聞こえそうだ。
僕はリヴェンジ出来ずに、人生を終えるのだろうか。
それはともかく、話は、まだ続く。
〈次回へつづく〉