第19話 ガダラの悪霊【6】

文字数 1,268文字

 根本的な話を唐突にするが、今、あなたにお読みいただいているこの小説は、私小説と呼ばれるジャンルの小説である。
 辞書的には「日本の近代小説に見られた、作者が直接に経験したことがらを素材にして、ほぼそのまま書かれた小説をさす用語が〈私小説〉である」と、ある。
 僕の言葉でざっくり言うと、ジャン・ジャック・ルソー『告白録』を始祖とする自然主義文学っていうのがあって、それが日本でガラパゴス化したのが私小説である。
 田山花袋がその作品『布団』から始めた伝統ある形式であり、これを得意とした作家は、太宰治である。
 また、後期の芥川龍之介も、私小説をたくさん書いた。
 なんで僕がこの作品を書かないとならなかったかというと、書きたかったからである。
 作者紹介の欄にはだいたいどこのサイトにも「眠るのが大好きです。読む小説は雑食です。小説を書き続けることを、目標にしています。その歩みは遅くとも、誰かの心に突き刺さるような小説を」と、書いているし、この小説の、今現在の段階での作品紹介欄のコピーは「誰かの記憶には残っていたいからさ、書き残しておくよっ!」である。
 自己紹介くらい、しとかなくちゃね。
 最後の挨拶、になるかもしれないけども。
 僕は結構、数奇な運命を辿ってきたので、その軌跡を自ら書いておかないと、全部嘘にされてしまう、と思うので。
 この小説に書いているのは、ほぼ実話である。
 私小説だから、ディテールなどは、ちゃんと考えている。
 でも、ノンフィクションみたいなものである。
 あまりに〈ひとによっては知っている有名人など〉が出てくるが、本当の話である。
 わるいことは書かないので、訴えないでくださいな、と予防線を張っておこう。

 僕の周囲にいた人物たちは、「どうせ、書くんだろ、おれたちのことを」と諦めていた節があるし、目立ちたいのだか目立ちたくないのだかわからない人物たちだったので、この作品で登場してもらって、過去にレクイエムを捧げておきたく思っている所存。
 僕自身に、自分を切り売りするしかリソースがない、という言い方も出来る。







 そう、この前の話だ。
 これを書いている今年の話だ。
 Zoomで純文学作家の佐伯一麦先生と会話することになってしまって、「この時代に私小説を書くのは難しいです」と、正直に喋ってしまった。
 僕は昔、〈魔法のiらんど〉というiモードのサイトで身辺雑記と回想を、面白くおかしく書いていた。
 そのノリで、僕は純文学を書いていた時期が長くあって、とある有名な文芸雑誌の新人賞で第三次選考に残り、今とは違うけど、当時のペンネームが、その雑誌に載ったことがある。
 でも、私小説は書くといつも酷い目に遭ってきたので、もう嫌だ、と思っていた。
 だが、佐伯先生に話をしたら、逆に私小説が書きたくなってきてしまった。
 だから、こうして今、書いているというわけである。
 佐伯先生には本当にあのときはすみませんでした、と謝りたい。
 そして、こうなったら純文学も、書く時間があったら書くぞ! と思うのだ。
 頑張るぞー! おー!




〈了〉
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成瀬川るるせ:語り手

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