第130話 太陽を掴んでしまった【4】

文字数 1,578文字

 先日、職場で仕事をしていたら、上司が、訪れた民生委員のひとと会話をしていた。
 訪れた彼は言う。
「庶民の場合は、さぁ。昔話だったら〈ストリップ小屋で裸のねーちゃんを見たことがある!〉くらいの話の方が良いんだよ。だってよぉ、家に金があって高学歴になる奴らはガキの頃から勉強尽くしで部屋と学習塾にこもって、町のことなんざまるで見ていねぇからさ。ガキ大将だった奴の方が子供の頃はいろいろ見ているんだよな」
 なるほどなぁ、と思う僕は、受け付けに座って、その話に耳を澄ませていた。
 と、いうか、ストリップと言えば、僕には思い出がいくつかある。
 別に、客としてそういうのを見たことは一度もないのだが。
 前に、男性ポールダンサー、つまり男性ストリッパーの話をこの小説の別の項でしたが、今回はフランス座の話をしたい。
 ストリップといえば、浅草のフランス座だ。

 そう、バンド活動をしていた頃、僕は警備員をやっていて、浅草のフランス座に入る手前の道、幹線道路から遊歩道に入る場所のビルの建設工事で交通誘導する仕事を、一週間くらいやったのであった。
 フランス座とは、彼の有名な大道芸人がプロになる前にエレベータボーイをやったりストリップの前座で漫才をやっていた場所だ。
 そこの思い出がある。
 今回は、フランス座の思い出話だ。
 なお、僕がフランス座のところで警備員をやったときにはストリップはなくなっていたらしいので、よろしく。







 今ではつくばエクスプレスが通っている「国際通り」という大きな道路から、浅草フランス座演芸場東洋館に入るための入り口のところのビルをつくることになって、僕が交通誘導で呼ばれた。
 ガラがそんなに良くないところだとは聞いていたが、工事のおっさんたち、溶接などするときに火花を散らすのだが、二階や三階で火花を散らしたのが、地上を歩く通行人に浴びせるようにかかるのである。
 おっさんたちはドリルなどの大きな音のせいで声をかけても聴こえないし、工事中の柵はあるのだが、ポールがなく、柵より外に火花が飛び散るということで、僕が一々工事の人と通行人を見ながら誘導することになった。
 酷い現場だった。
 で、そこはちょうどフランス座の入り口になっている。
 よって、〈演芸場のお姉さん〉が、自動車で運ばれて来る。
 序列があって、普通はタクシーで来るのだが、明らかに人気のありそうな、お金のかかった服装と化粧をしたお姉さんたちは、運転手付きの外車で入り口まで乗りつける。
 凄い。
 これは、のちに僕が名古屋に一人で旅して泊まった場所が風俗街の中にあるビジネスホテルで、ヒマだから風俗街を散策したとき、高級風俗のお姉さんたちも、やはりタクシーの場合と運転手付き外車という差別化がされていて、定番の序列化なのだな、と思った。
 もちろん、徒歩で通勤する女性もいる。

 ちなみに、僕らのバンドは電車&徒歩移動だったが、ビジュアル系のバンドなどは付き人にバンを運転させてライブハウスまで来るのだから、これはどこでもあるような風景ではあるのだろう。

 しかし、フランス座。
 無名時代の井上ひさしが劇場座付き作者をつとめたことがあり、井上はこの劇場のことを「ストリップ界の東京大学」と言っていた、ってエピソードは強い。
 井上ひさしはのちに、仙台文学館の館長となり、そして僕は仙台文学館の講座に何回も参加することになる。
 さらに言えば、僕がこの小説を書くきっかけとなったのは、仙台文学館の現館長の佐伯一麦先生の講座で「現代では私小説を書くのは難しい」と本人の前で発言してしまった出来事で、そこから始まったのであった。
 巡り巡って、そういうこともあるのだから、人生は面白い。

 今回は書きたいことがまだあるのだが、今回はページ数の関係で、ひとまず、次回へつづく、ということにしよう。




〈次回へつづく〉
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成瀬川るるせ:語り手

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