第54話 世界の果てのフラクタル【11】

文字数 2,667文字

 僕の人生の中で、「いちゃらぶセックスがしてぇなぁ」などとほざいている男性は100パーセントの確率で女性にドメスティックバイオレンスをしているか女性の身体で遊んだら速攻で捨ててその女性が泣いているのを確認してゲラゲラ笑っているかのどちらかであり、全く信用が出来ない。
 女性を泣かせるということが男のステータスだ、と勘違いしていて自分に酔いしれているので、本当に最低な男性なのだが、そういう奴に限って最低な男、という言葉は勲章かなにかと思っている。
 誠に遺憾であるが、そういう男性はそういう嗜好性、欲望を抱えていて、それを達成することに快感を覚えている。
 偏見だ、と思われそうだが、僕の人生の中では、そういう奴はそういう奴らでしかなかった。
 非常に醜い。
 だが、「お前は醜いよ」と言うと、それは僕からのやっかみ、嫉妬だと思い込んで、ほくそ笑む。
 頭がおかしい。
 正直、僕よりも、そう言う奴らが閉鎖病棟にぶち込まれた方がいいと思う。
 アホい話ではあるが、いくらでもそういう男性がいて、勝者のつもりになって笑っている。
 そのような景色を、僕はうんざりするほど見てきた。
 ひとの欲望とはわからないものだなぁ、といつも思う。
 だいたい、他の男性たちにうらやましがられたくて、現実の女性に酷いことをして泣かせて喜ぶ、という欲望を持っているというのは、「お前、ホモなのか? ていうか、そういう話を手柄のように僕に話して嫉妬させたいというのは、お前、もしかして僕のことが性的に好きなのか?」と訊いてみたくなるというものだ。
 僕ではなく、そういうワルを気取っている奴がホモいのであって、僕は男性が反吐が出るほど嫌いだし、消去法によって女性が好きだ、ということである。
 ここらへんを考察すると、性的倒錯というのはどこにでもある、ありふれたものであるというのがわかる。
 とりあえず、いちゃらぶとほざいている男性には気をつけた方がいい。
 考えすぎると頭が痛くなってくるので、この話はここまでにしておこう。







 僕が高校二年生の頃。
 富士見二丁目交響楽団シリーズのオリジナルビデオアニメが発売された。
 高校三年生の先輩がそのアニメーションビデオを買って貸してくれた、というので、部活の部長の家に、僕と同じ二年生のカケと一年生の部員との三人で、お邪魔することになった。

 その日、他に家には誰もいないらしかった。

 アニメーションアニメを観る前に、
「わたしのお兄ちゃんの部屋にある実写ビデオを観ましょう」
 と言って部長が、『ケッコウ仮面』という永井豪先生原作の漫画を実写化したものをテレビに映し出した。
 部長がどういうつもりだったかは知らないが、僕はこの漫画をよく知っていた。
 顔を赤い覆面で隠している女性ヒーロー、というかヒロイン、その子が悪人や怪人を退治するのだが、顔を隠していてマフラーをたなびかせているだけで、全裸なのである。
「けっこーけっこーこけっこー。頭隠して尻隠さず」
 という謎の決め台詞で現れて、敵を倒す。
 全裸なのを特に気にするわけでもなく敵を倒す。
 ヒロインが恥ずかしさを感じないところが笑えるし、そこに興奮する性癖も理解は出来る。
 えろい展開も、もちろんある、だって裸で戦っているし。
 でも、続編になっていくと、そのケッコウ仮面がたくさん同時に現れる。
 画面いっぱいに現れる、全裸で顔だけ隠したヒーローっていうか、ヒロイン。
 そう、〈メタルクウラ〉と同じノリだ。
 意味がわからないが、迫力があるので、さらによくわからなくなる。
 この画面いっぱいに強い奴が現れるというのはケッコウ仮面にしてもメタルクウラにしても同じで、ジャパニメーションに深い影響を受けてつくられたハリウッド映画『マトリックス』でも、〈エージェント・スミス〉という強いキャラが、画面いっぱいに増殖する。
 今、書いていて気づいたが、イエローマジックオーケストラのアルバム『増殖』も、バンドメンバーが増殖して画面いっぱいに溢れているというのがジャケットになっている。
 サンプルが少なくてすまないところだが、ジャパニメーションと言えば、同じ奴が増殖する、という定番ネタがあり、ケッコウ仮面もその一種だった、と言える。
 そして、その実写化されたケッコウ仮面も、顔を隠した裸の女性が画面いっぱいに崖の上から姿を現すシーンが、印象的に描かれていて、たぶんこのシーンが「見せ場」なのだった。
 その場にいた他の三人が笑うので、僕も釣られて笑う。
 冷静に考えれば、阿呆な設定とシーンだということで笑っているのではなく、恥ずかしさを隠すために、他の三人は笑っているのかもしれなかった。
 だが、僕は残念ながら、本当はよく知っていたので、乾いた笑いをしていたかもしれない。
 そして、その鑑賞を終えてから肝心のフジミを観るのだが、後輩の部員が、「きゃー」と言って僕に抱きついてきた。
 部長も僕の身体をくすぐってくる。
 どう考えても押し倒すことが出来る。
 だが。
 そもそも、だ。
 このビデオを貸してくれた先輩というのは、彼氏と彼氏の友達の男性と三人で3Pをしているようなかなりアレな女性である。
 仕組んだのは見え見えだし、ここに男性が僕だけなのならば話は別だが、もう一人男がいるのである。
 残念ながら、この男性の裸を観たら萎える、と確信するし、先輩の〈ビッチ脳〉ならば、「ぎゃはは。こいつら二人を〈兄弟〉にしちゃえー」と考えるだろう、少なくとも、僕が先輩の立場の女性だったらそのくらい悪ふざけを企むだろう、と考えて、はねのけたし、カケが部員を押し倒す展開も封じた。
 斯くして、その場は健全なビデオ鑑賞会となって幕を閉じたし、膜は開かなかった。
 いや、わからないが。
 違うところでカケが開いていたかもしれないが。
 だが、その場では、防いだ。
 よかったよかった。
 いや、よかったのか?
 わからない。
 未だにわからない。
 しかし、ビッチ先輩の計略を阻止し、思惑通りにさせなかったのは、僕の〈勝ち〉だと思った。







 今回はなんの話だったか、というと、ひとの欲望はわからないものだ、ということだ。
 その場にいた僕だけが性行為を拒否し、その場を調停させ、ややこしい関係性になるのを防いだだけで、どう考えても他のメンバーは4Pをしようと思って集まっていたに違いなかったからだ。
 据え膳は喰わず、高楊枝する高校二年生の頃の僕であった。
 僕は阿呆なのか?
 阿呆だろう。
 まあ、どうでもいい話である、今となっては。






〈次回へつづく〉
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成瀬川るるせ:語り手

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