第39話 成瀬川るるせと新世界【3】

文字数 1,130文字

 僕は一枚のDVDを持っている。
『はりきりラビリンス』と名前のついたそのDVDは、声優の松来未祐さんと阿澄佳奈さんがわきゃわきゃと喋ったりしているだけの、ファン以外が観たらなにを観ているのかさっぱりわからないタイプの動画が収められたDVDである。
 未だに地元の人々は僕が阿澄さんの番組のリスナーだったことなどを揶揄したり、地元のひとは僕が阿澄さんの番組のリスナーだったことを、僕を鼻で笑う根拠にしたりしてくるが、阿澄佳奈さんと言えば、松来未祐さんとのタッグがあまりにも有名であり、僕の中では二人を切り離すことは出来ない。
 前記の『はりきりラビリンス』なるDVDだが、少し恥ずかし顔をした松来未祐さんが、カメラ画面(つまり視聴者)に向かって結婚のお見合いをしているコーナーが長く続く。
 ここに、「生前の松来未祐さん」と、「生前の」と付けなくてはならないので、僕はこのDVDを、今となっては松来さんの命日の10月27日近くにならないと、観ることが出来ない。
 慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)で亡くなる松来さんは、番組に出演できた最後の方まで、ラジオで「結婚したいなぁ」とネタのようにぼやいていて、結婚することなく亡くなってしまった。
 その松来さんが視聴者とヴァーチャルお見合いしているコーナーなんて、僕は冷静に観るのは、不可能だ。
 松来未祐さんは、2013年頃より夜中に39℃の熱を出しては翌朝には下がるなどの症状を訴え始めたらしい。
 そして、2015年10月27日午後10時18分に、慢性活動性EBウイルス感染症で死去した。
 実は僕は2012年に仕事場や近隣住民などから酷い目にあって自殺未遂していて、そのまま胃洗浄を受けて入院している。
 2013年は療養中である。
 そして、2015年の9月か10月あたりには、また近隣住民などから迫害を受け、身体が動かなくなり、治療のため入院することになった。
 2012年から2015年までの自分と、2013年から2015年の松来未祐さんを、僕は重ねてしまうのだ。
 もう一度最初に戻って言うと、声優の松来未祐さんと阿澄佳奈さんはタッグであった。
 なので、阿澄佳奈さんの名前を出されると松来未祐さんを思い出してしまうので、本当に近隣住民のみなさんは僕の黒歴史を語って困らせてやろうと阿澄さんの名前を僕の前でぼそっと呟いてゲラゲラ笑うモーションを即刻やめてくれ。
 もしくは僕に悪意を持って接するその近隣住民たちは死んでくれ。
 死んで、お前らの代わりに松来さんを返してくれ。
 本気で、そう思う。
 今回は暗い話になってしまったが、近隣住民があまりに悪意を持って僕に接するので、書かざるを得なかったのであった。





〈次回へつづく〉
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成瀬川るるせ:語り手

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