第86話 YAMAHA:QY100【7】
文字数 1,388文字
文章書きの間では、〈クソ恥ずかしいポエムを口語自由詩と言い張る会〉と、〈クソどうでもいい身辺雑記を純文学だと言い張る会〉のふたつの〈会〉が存在する。
ポエムと詩は違うし、身辺雑記は純文学と違う。
だが、〈クソ恥ずかしいポエムを口語自由詩と言い張る会〉と、〈クソどうでもいい身辺雑記を純文学だと言い張る会〉がなくなることは、ないだろう。
そう思っていたこともあって、僕は、詩はメロディに乗せる歌詞として、作曲とセットにして書くことも多かった。
だが、詩を書いていた中学、高校時代の僕はポエマーだったに違いない。
また、〈スケッチ〉としての私小説、みたいな、アンチロマンの成り損ないみたいなものを純文学と言い張っていた節が、昔の僕にはあった。
この〈クソ恥ずかしいポエムを口語自由詩と言い張る会〉と、〈クソどうでもいい身辺雑記を純文学だと言い張る会〉の壁を越えたところに、執筆のスタートはある。
芸術家気取りを辞めて、同時に職人とは違うことも意識し、クリエイトしていくのが文筆の目指すところだと僕は考えている。
線引きが異様に難しいところだが、この〈違い〉を意識するのを常にしておかないと、独りよがりの恥ずかしいものをつくってしまうことになる。
ひとにお読みいただくために書いているのを忘れてはダメだ。
ひと、とは自分自身も含めての、読者さんのことだ。
☆
僕がカラオケボックスの受け付けでぼーっとしていると、店長の嫁さんが話しかけてきた。
「るるせ、おまえ、〈ジーテン〉て知っているか?」
「ジーテン? 地球が公転と同時にしている、アレですか?」
「自転のことをわたしが話しかけるわけねーだろが。少しは考えて発言しろな、るるせ? そうじゃない、悪徳商法とのボーダーラインのひとつに、ジーテンと呼ばれるものがある」
「はぁ……。で、それはどんなものなのですか」
「一枚10万円以上の高額の布団を売りつける商売だ」
「えぇ……、もしかしてそれ、やっていたと言うのでは」
「それがやっていたんだわ、旦那と出会う前の頃は、ね」
「10万円以上の布団って、そんなに売れるものなのですか」
「売れるねぇ」
「どうやって」
「結構近くに、フェリーに乗る海岸あるじゃん。あそこの海岸は夜になるとナンパスポットになってるの。で、男どもが自動車を横付けして待ってんのね。そこに、ナンパされたい女たちが歩いて、キャッチされて、酒飲みに行ったりそのままラブホテルに行ったりする。その海岸を利用して、ナンパ男どもに売りつける。これがバカスカ売れるんだわ。あっは」
「え、えぇ……。怖っ」
「ま。るるせは将来、どうせ小説でも書くことになるでしょ。覚えておきなさいよ。なにかの折りに使えるかもよ。そして教えたわたしに感謝しろよ〜」
「へーい」
「ところで、るるせはさぁ、仕事がオフの日、なにしてんの?」
僕は一緒にQY100で遊んでいるカケや、その頃知り合った児童劇団の団長、カズコさんの顔が浮かんだが、かぶりを振ってから、
「いやー、暇人だからなにもしてないっス」
と、答えた。
店長の嫁さんは「ふ〜ん」と気のない風に僕の言葉を聞いてから、
「今日もトイレ掃除頑張って」
と言ってサムズアップして、話をそこで打ち切ったのだった。
うーむ、身辺雑記をさっき貶めたけど、こういう話は、昇華させれば文学性を帯びるよね。
違いない。
〈次回へつづく〉
ポエムと詩は違うし、身辺雑記は純文学と違う。
だが、〈クソ恥ずかしいポエムを口語自由詩と言い張る会〉と、〈クソどうでもいい身辺雑記を純文学だと言い張る会〉がなくなることは、ないだろう。
そう思っていたこともあって、僕は、詩はメロディに乗せる歌詞として、作曲とセットにして書くことも多かった。
だが、詩を書いていた中学、高校時代の僕はポエマーだったに違いない。
また、〈スケッチ〉としての私小説、みたいな、アンチロマンの成り損ないみたいなものを純文学と言い張っていた節が、昔の僕にはあった。
この〈クソ恥ずかしいポエムを口語自由詩と言い張る会〉と、〈クソどうでもいい身辺雑記を純文学だと言い張る会〉の壁を越えたところに、執筆のスタートはある。
芸術家気取りを辞めて、同時に職人とは違うことも意識し、クリエイトしていくのが文筆の目指すところだと僕は考えている。
線引きが異様に難しいところだが、この〈違い〉を意識するのを常にしておかないと、独りよがりの恥ずかしいものをつくってしまうことになる。
ひとにお読みいただくために書いているのを忘れてはダメだ。
ひと、とは自分自身も含めての、読者さんのことだ。
☆
僕がカラオケボックスの受け付けでぼーっとしていると、店長の嫁さんが話しかけてきた。
「るるせ、おまえ、〈ジーテン〉て知っているか?」
「ジーテン? 地球が公転と同時にしている、アレですか?」
「自転のことをわたしが話しかけるわけねーだろが。少しは考えて発言しろな、るるせ? そうじゃない、悪徳商法とのボーダーラインのひとつに、ジーテンと呼ばれるものがある」
「はぁ……。で、それはどんなものなのですか」
「一枚10万円以上の高額の布団を売りつける商売だ」
「えぇ……、もしかしてそれ、やっていたと言うのでは」
「それがやっていたんだわ、旦那と出会う前の頃は、ね」
「10万円以上の布団って、そんなに売れるものなのですか」
「売れるねぇ」
「どうやって」
「結構近くに、フェリーに乗る海岸あるじゃん。あそこの海岸は夜になるとナンパスポットになってるの。で、男どもが自動車を横付けして待ってんのね。そこに、ナンパされたい女たちが歩いて、キャッチされて、酒飲みに行ったりそのままラブホテルに行ったりする。その海岸を利用して、ナンパ男どもに売りつける。これがバカスカ売れるんだわ。あっは」
「え、えぇ……。怖っ」
「ま。るるせは将来、どうせ小説でも書くことになるでしょ。覚えておきなさいよ。なにかの折りに使えるかもよ。そして教えたわたしに感謝しろよ〜」
「へーい」
「ところで、るるせはさぁ、仕事がオフの日、なにしてんの?」
僕は一緒にQY100で遊んでいるカケや、その頃知り合った児童劇団の団長、カズコさんの顔が浮かんだが、かぶりを振ってから、
「いやー、暇人だからなにもしてないっス」
と、答えた。
店長の嫁さんは「ふ〜ん」と気のない風に僕の言葉を聞いてから、
「今日もトイレ掃除頑張って」
と言ってサムズアップして、話をそこで打ち切ったのだった。
うーむ、身辺雑記をさっき貶めたけど、こういう話は、昇華させれば文学性を帯びるよね。
違いない。
〈次回へつづく〉