第96話 ミッドナイト・ストリートパフォーマンス【3】

文字数 1,520文字

 この間のこと。
 僕は作家仲間である友人と、チャットで話をしていた。
 そこで語ったことの、僕の発言だけを、抜粋したいと思う。







 文化がなくなった土地って、人は抵抗なく捨ててしまう。だからカルチャーって重要だ、ってのは、ありますねぇ。

 僕らの主戦場のサイトが焼け野原になっちゃって、それでやばいのは、土壌に文化の蓄積がなくなってしまったから、ではないでしょうか。
 受け継いでいけたところが、ウィキにも残るような場所で、そうじゃないサイトが消えていく。
 ユーザー同士で潰しあって焼け野原じゃあ、人は住み着かず、出ていってしまう。
 だからって、なかよしこよしでも、停滞してしまうし、同調圧力が出てきて、排他的な場所になっていってしまう。

 たとえば、僕の知っている領域で例えると。
 水戸藩という土地は、尊攘思想の発祥の地だけど、幕末に藩内で潰し合いをして、みんな死んでしまったので有能な人材がいなくなって、結果、明治政府には水戸藩の人いない状態になった。
 立て役者だったはずが、排除されてしまう事態になった、ということ。
 焼け野原になっているうちに、ほかの藩においしいところを全部持っていかれてしまったのです。

 それを知っていると、この問題がかなり深刻なのがわかる。

 もうひとつ例えを出すと、〈知る人ぞ知るラーメン屋〉は、美味しいかは謎で、〈みんなが知っているラーメン屋〉が、美味しいということになる、っていう理屈です。

 みんなが知っているラーメン屋ってことは、そこにみんなの〈共通理解〉がある、それは話を戻すと、文化の蓄積がある、ってことに該当する。
 知らなきゃそんなの行かないのだから潰れて、焼け野原です。
 その店が本当においしいラーメン屋だったとしても、です。
 おいしい、っていうことを知る〈知〉を持ったひとたちがその〈知〉を継承していけば、潰れないのですが。







 僕の住んでいた町の商店街はもう限界で、シャッター商店街になっていた。
 商店街が栄えていたところが斜陽化し、そこに大きなデパートを誘致し、デパートの力で商店街が潰れ、じゃあ、デパートがずっと栄えるかと言うとそうでもなく、デパートも潰れ、焼け野原。
 こんな町に、好んで住むだろうか。
 そこで、文化の継承が必要になってくる。
 その町に〈ストーリー〉がなければ、町のひとが〈町を誇りに思う〉ことがないからだ。
 実際、これを書いている今、ちょうど町が新しい文化施設を建てている。
 町の大きな工場の、初期の操業小屋などの再現をした施設だ。
 ちなみに言うと、町の工場は世界規模の大企業であり、町はいわゆる〈企業城下町〉である。
 僕が小学生のときは、親がその企業の人間でなければ、差別を受ける、なんてこともあった。
 その町創業の地の再現。
 僕は町の嫌われ者なので、だからどうした、という部分はあるが。
 ストーリーの重要性、カルチャーの重要性を、町もわかったのだな、という感じだ。


 話を戻すと、商店街が潰れゆくなか、二階建ての雑貨屋だったテナントに学習塾が入るというので、ささやかな反対運動として、音楽イベントがそこで行われることになった。
 そこに、アキナさんというバンドマンから誘われ、僕とカケが打ち込みユニットで参加することになったのであった。

 一階にチケット販売の受け付けがあり、アロマキャンドルで照らされたコンクリート打ちっぱなしの階段を上がると、薄暗い照明とキャンドルの明かりで怪しく照らされたスタンディングの客席と、アンプ類が置かれたステージがある。
 後ろにはミキサー卓とミキシングエンジニアのひと。

 僕らは準備万端だった。
 そして、僕らのユニットの初ライブが始まる。




〈次回へつづく〉
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成瀬川るるせ:語り手

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