第88話 YAMAHA:QY100【9】

文字数 1,159文字

〈葉鍵〉という言葉をご存知だろうか。
〈葉鍵〉とは、LeafとKeyの、ふたつの美少女ゲームメーカー(ゲームブランド、と呼ばれる)を合わせて、そう呼ぶのである。
 コミックマーケットのジャンル分けで、このふたつのメーカーがセットになっていたことなどから、〈葉鍵〉という呼び方が広まった。
 僕のまわりの人間、ギンやコーゲツはLeafの『ToHeart』や、Keyの『KANNON』と『AIR』をほぼリアルタイムでプレイしているユーザーでもあり、そして〈型月〉ことTYPE-MOONの『月姫』も、同人で発売したと同時に手に入れ、プレイしている。
それというのも、ギンは高校卒業後、すぐにパソコンの専門学校に行くため上京し、次いでコーゲツも大検を取ってから上京し大学の夜間大学に入学して、親元を離れたから、という理由が大きい。
 彼らはやっと羽を伸ばして人生を謳歌し始めた。
 美少女ゲームは、当時のギンやコーゲツにとって、自由の象徴、と言ってもよかった。

 僕は高校卒業後、2年間、軍資金を貯める期間があったし、インターネットがない、などの理由から、そのブームには乗れなかった。
 いや、購読していた雑誌『クイックジャパン』で「総力特集・超ギャルゲー」というのがあり、Leafの『ToHeart』のキャラクター「マルチ」が表紙を飾り、ゲームが詳しく説明されてはいたのだが。







 高校卒業後、たまたま再会したユキヒサという男たちのグループで、僕は『リーフファイト97』をプレイすることになる。
 そのパソコンゲーム『リーフファイト97』とは、ゲームブランドLeafが発売したファンディスク「初音のないしょ!!」内に収録されたゲームである。
 ユキヒサたちは漫画をたくさん読んでいたが、「読めよ」と言って渡されたコミックスを読むスピードが遅い僕は、
「うひょひょひょひょひょ、漫画すらろくに読めねぇのか、うひょひょ!」
 と笑われたので、やっぱり僕は小説読むわ、と思ったものだった。
 僕が漫画をあまり読めないことを考えてくれたのか、ユキヒサたちは、家庭用ゲーム機の格闘ゲームに僕を参加させてくれた。
 その中で、異彩を放っていたのが、家庭用ゲームではない、『リーフファイト97』だった。
 パソコンゲームである。
 そして、ユキヒサたちはゲームパッドを買わず、パソコンのキーボードでプレイしていた。
「プレイヤー二人で対戦プレイもできるんだぜ、うっひょ!」
 ユキヒサはそう言って、僕と身体を密着させて、ひとつのキーボードで対戦プレイをするのだった。


 ここでいきなりユキヒサという人物が出てきたが、彼は小学生の頃の、僕の少ない友人のひとりだった。
 もちろん、普通に友人になったわけではない。
 なので、項を改めて、こいつとの出会いの話も、しよう。




〈次回へつづく〉
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成瀬川るるせ:語り手

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