第31話 エブリデイ・アット・ザ・バスストップ【7】

文字数 1,576文字

 バスの揺れ方で人生の意味がわかった、ブラスバンドの思い出を、今回は語ろう。
 ブラスでバスって言ったら、低音のことになっちゃうけども。

 高校一年生の二学期から高校二年生の一学期まで、僕はガッコウから駅へ行くまで、吹奏楽部の女性の、トランペッターの先輩と一緒に下校することが多かった。
 次いで、吹奏楽部のなっちゃんと呼ばれていた女性と下校することが多かった。
 なっちゃんの担当楽器がなんだったか、今の僕は思い出せない。
 チューバかホルンだと思ったが、トランペットやトロンボーン、全部の金管楽器をこなせるので、いつも違う楽器を時々によって吹いていた印象が強く、一体なにものだったのか、僕にはわからなかった。
 なっちゃんはスピッツのファンだった。
 吹奏楽部の部長が、
「アンタはスピッツの誰が好きなの? マサムネ?」
 と訊くとなっちゃんは、
「わたしはスピッツが好きなの! 全員好きなの!」
 と、怒っていたことがあった。
 なっちゃんが、
「るるせくんはスピッツ、曲、どんなのが好き?」
 と訊かれたので、
「『スパイダー』かなぁ」
 と、答えた。
「ふぅん、そうなんだ」
 と、なっちゃん。
 きっと僕が『バニーガール』と答えるだろうなぁ、と思って僕はフェイクをかけておいた。
 だが、特にツッコミが入ることもなく、その会話は終了した。
 ちなみに、のちに『メモリーズ・カスタム』を、僕はとても好きになる。
 そういえば、ファン投票で「ライブでやってほしい曲」を選んで貰ったら『うめぼし』が圧倒的な人気を誇った、という話を聴いたことがある。
 僕は高校三年生で視聴覚委員会の委員長になるのだが、僕が高校三年生の時、入学式の行進でアルバム『フェイクファー』からチョイスしたら、とても好評だった。
 委員長として快調なスタートを切れたのは、スピッツのおかげだ。
 今、AppleMusicで検索したら、奥田民生さんの『さすらい』のカヴァーがスピッツではかなり検索上位だったことを知って、これを書きながら興奮している。
 話を戻すと、よく一緒に帰っていたわりには、どんな会話をなっちゃんとしたか、僕は思い出せない。
 とりとめもない話をしていたのだと思う。

 トランペッター先輩とは、僕はどんな会話をしただろうか。
 先輩はなにも伝えていないのに、
「今月の『山田太郎物語』が、ねー。面白くてねー」
 とか、そんなことを言って一人でウケていたりする。
 僕はその漫画の載っている少女漫画雑誌を毎月買っていたが、先輩には話していなかった。
 かなり僕に詳しいひとだった。
 そして、『山田太郎物語』と言えば、主人公の家は貧乏なのにお母さんが浪費家である、という設定について先輩はなにか言いたそうだったが、僕はスルーした。

「ねぇ、るるせくん! 今日、わたしの家、家族が旅行にでかけちゃって家にはわたしだけなの!」
 突如、先輩はそう言った。
 一瞬、考えた。
 だが、その一瞬が、長かったらしい。
「あ。じゃ、わたし、帰るから! じゃ、また明日ね!」
 先輩はそそくさと帰っていってしまった。
 凄まじい後悔が僕を襲った。

 あと、トランペッター後輩というのもいて、プリント倶楽部で撮った彼氏の写真があるらしいとのことで、それを持ってきたときに見て、
「あはは。おまえはこんな男とセックスしているのかぁ」
 と言ったら、
「いやあああああああああ!」
 と、絶叫してプリクラ写真を取り返しどこかへと逃げ去った。
 可愛い反応だが、深入りすると吹奏楽の部長たちにぶち転がされる気しかしないので自分を抑える僕なのだった。

 でも、その周辺では、僕は吹奏楽部の顧問教師と付き合っているのではないか、と言われていた。
 本当に言われていた。
 そんなわけがないのだが。
 まあ、『チェリー』な僕の、『センチメンタル』な『メモリーズ』が、今回のお話だ。




〈了〉
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成瀬川るるせ:語り手

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