第126話 常陸牛乳【6】

文字数 877文字

 踊るロマンの血みどろのなかを歩く。
 転がりは見えないままで、がなる。
 バンドの夏が始まった。
 僕らは、吉祥寺プラネットKでライブを行う。
 楽屋で飲むジャック・ダニエルに、僕は酩酊感を覚える。
 次いで、下北沢シェルター。
 それに、僕らがその後、何度も出演することになる原宿ルイードと、国分寺モルガーナ。
 ルイードとモルガーナは、僕らのバンドの話をするには、避けては通れない場所だ。
 僕らはバイトとスタジオを往復する暮らしをした。
 それに、2週間から3週間に1回はライブを行うスケジュールだ。
 僕らがよく使ったリハーサルスタジオは、吉祥寺のスタジオペンタになった。
 夕方から夜までがスタジオの日は、吉祥寺駅のそばのレコード屋のある建物に入っている中華料理屋にメンバー三人で寄って、ガツガツ料理を食いながら、ひたすら音楽の話に花を咲かせていた。
 スタジオと言えば、道玄坂と円山町の境目、オンエアイーストの裏手にあるスタジオは、僕は割引が効くのでそこもよく使うようになった。







 ある日、オンエアイーストの裏手のスタジオで練習していたら、防音設備をぶち破って、アニメソングを大声でがなるボーカルの声が聴こえてきた。
 ドラムが〈ツーバス〉と呼ばれる奴で、これも防音を突き破ってくる。
 考えるまでもなかった。
 これはバンド〈アニメタル〉がリハやっていたのである。
「いや、負けられねぇ」
 僕も大声でシャウトして、調子外れだけど力強いボーカルで音圧の壁をつくるように、太く、声を出す。
 向こうも本気出してきたのが聴こえる。
 ボーカル合戦をしてしまったのであった。
 あとで、スタジオ内から出てきたシンキさんが笑っていたのであった。
 そして、うちのドラムに、
「おまえ、ドラマーやってるのか。あははははは」
 と、大爆笑してから、
「いや、おまえ、センスあるよ」
 と付け加えていた。

 バンド・メジャートランキライザーと常陸牛乳は、人間関係は崩れてきていたが、活動は旺盛で、早くも全盛期を迎えようとしていた。
 だが、それでめでたしめでたしには、ならないのが僕の人生なのである。




〈了〉
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成瀬川るるせ:語り手

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