第97話 ミッドナイト・ストリートパフォーマンス【4】
文字数 1,406文字
僕とカケが初めてライブをした場所は、学習塾が入る予定のテナントの、学習塾反対運動の一環としてのライブだった。
レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンみたいな問題意識を持ったライブイベントである。
または、ボブ・マーリーか。
G&Lのテレキャスターのギターと、ベースのカケ。
それからYAMAHAのシーケンサーQY100。
僕らは楽器やエフェクター類、それからシーケンサーをセッティングする。
「自分の人生を生きているか?」
短いMCを僕は囁き、ステージにスポットが照らされ。
そして僕らの演奏が始まる。
☆
僕とカケは、同じ町の同じ商店街でバイトをしていた。
カケはCDショップ、僕はカラオケ屋だ。
カケのいたショップには、有名なバンド〈犬神サーカス団〉のメンバーも勤めていた。
一方の僕は、美形のにーちゃんたちに囲まれながら、相も変わらず下っ端人生を送っていた。
受け付けの奥から、店長の奥さんが声をかけてくる。
「るるせー。両替してこい」
「もう銀行は閉まってますよー」
「んなの、時計見ずともわかるだろが。阿呆か。パチンコ屋数件あるだろ、ここらへん。そこで両替してこい」
「え? それはダメなのでは」
「ダメだよ? 当たり前のことをわたしに訊くな。ダメだが、行って両替してくるんだよ」
「くるんだよ、って、僕が、ですか?」
「ほかに誰がいるんだよ、迅速な行動を心がけろな?」
「へーい」
僕は一万円札を十枚くらい持って、カラオケ屋を出て、パチンコ屋へ向かう。
ついでなのでカケのCDショップに立ち寄ると、カケがキャッシャーに突っ立っている。
「よぉ、カケ」
「るるせちゃん」
「売れてる?」
「売れてないねー、CD」
「今は犬神サーカス団のひとはいないの?」
「あのひとは教室の講師だから、あまり顔を出さないよ」
「へー。そうなんだ。洋楽だと、みんなどんなの買ってる?」
「それが、ね。レディオヘッドだけは飛ぶように売れるんだよ!」
「へー」
「油売って、なにしてるの、るるせちゃん」
「あ、やべぇ。〈おつかい〉の途中だった」
「ふーん」
「じゃ、またな」
「ばいばーい」
カケの働く店を出て、僕はどのパチンコ屋に寄るか決める。
「じゃ、行きますかー」
僕はとぼとぼと歩き出す。
☆
両替だけだと「わるいひと」になってしまうので、パチンコ屋店内の自動販売機で缶珈琲を買う僕。
飲みながら、店員がいないのを見計らって、両替する。
怒られないか冷や汗をかきながら、僕はパチンコ屋の外へ。
カラオケ屋まで歩いていると、開きっぱなしの扉に異国情緒あふれる暖簾がかかったお店があった。
こんな店、ここにあったかな、と思って見ながら歩いていた。
すると、上半身裸で背広とワイシャツを腕に持った男性が、店の外に飛び出してきた。
次いで、カタコトの日本語の東南アジア系の外国人の女性が、
「オ金払ワナイトダメヨ〜!」
と怒鳴って、店の奥から外に出てきた。
女性はネグリジェ姿だった。
サラリーマンの逃げるスピードは速く、ネグリジェの女性は追うのをやめて、その場でなにか海外の言葉を叫んで、つばを吐いてから、店の中に戻っていったのであった。
「……いろいろあるものだな」
僕はあきれてしまったが、パチンコ屋で両替している僕も五十歩百歩だ。
情けないことに変わりはない。
そんな商店街の、国道に面した土地で、夜、僕とカケはステージに立つ。
楽しいショーの始まりだった。
〈次回へつづく〉
レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンみたいな問題意識を持ったライブイベントである。
または、ボブ・マーリーか。
G&Lのテレキャスターのギターと、ベースのカケ。
それからYAMAHAのシーケンサーQY100。
僕らは楽器やエフェクター類、それからシーケンサーをセッティングする。
「自分の人生を生きているか?」
短いMCを僕は囁き、ステージにスポットが照らされ。
そして僕らの演奏が始まる。
☆
僕とカケは、同じ町の同じ商店街でバイトをしていた。
カケはCDショップ、僕はカラオケ屋だ。
カケのいたショップには、有名なバンド〈犬神サーカス団〉のメンバーも勤めていた。
一方の僕は、美形のにーちゃんたちに囲まれながら、相も変わらず下っ端人生を送っていた。
受け付けの奥から、店長の奥さんが声をかけてくる。
「るるせー。両替してこい」
「もう銀行は閉まってますよー」
「んなの、時計見ずともわかるだろが。阿呆か。パチンコ屋数件あるだろ、ここらへん。そこで両替してこい」
「え? それはダメなのでは」
「ダメだよ? 当たり前のことをわたしに訊くな。ダメだが、行って両替してくるんだよ」
「くるんだよ、って、僕が、ですか?」
「ほかに誰がいるんだよ、迅速な行動を心がけろな?」
「へーい」
僕は一万円札を十枚くらい持って、カラオケ屋を出て、パチンコ屋へ向かう。
ついでなのでカケのCDショップに立ち寄ると、カケがキャッシャーに突っ立っている。
「よぉ、カケ」
「るるせちゃん」
「売れてる?」
「売れてないねー、CD」
「今は犬神サーカス団のひとはいないの?」
「あのひとは教室の講師だから、あまり顔を出さないよ」
「へー。そうなんだ。洋楽だと、みんなどんなの買ってる?」
「それが、ね。レディオヘッドだけは飛ぶように売れるんだよ!」
「へー」
「油売って、なにしてるの、るるせちゃん」
「あ、やべぇ。〈おつかい〉の途中だった」
「ふーん」
「じゃ、またな」
「ばいばーい」
カケの働く店を出て、僕はどのパチンコ屋に寄るか決める。
「じゃ、行きますかー」
僕はとぼとぼと歩き出す。
☆
両替だけだと「わるいひと」になってしまうので、パチンコ屋店内の自動販売機で缶珈琲を買う僕。
飲みながら、店員がいないのを見計らって、両替する。
怒られないか冷や汗をかきながら、僕はパチンコ屋の外へ。
カラオケ屋まで歩いていると、開きっぱなしの扉に異国情緒あふれる暖簾がかかったお店があった。
こんな店、ここにあったかな、と思って見ながら歩いていた。
すると、上半身裸で背広とワイシャツを腕に持った男性が、店の外に飛び出してきた。
次いで、カタコトの日本語の東南アジア系の外国人の女性が、
「オ金払ワナイトダメヨ〜!」
と怒鳴って、店の奥から外に出てきた。
女性はネグリジェ姿だった。
サラリーマンの逃げるスピードは速く、ネグリジェの女性は追うのをやめて、その場でなにか海外の言葉を叫んで、つばを吐いてから、店の中に戻っていったのであった。
「……いろいろあるものだな」
僕はあきれてしまったが、パチンコ屋で両替している僕も五十歩百歩だ。
情けないことに変わりはない。
そんな商店街の、国道に面した土地で、夜、僕とカケはステージに立つ。
楽しいショーの始まりだった。
〈次回へつづく〉