第128話 太陽を掴んでしまった【2】

文字数 1,060文字

 渋谷区神山町の韓国料理店でひとり、僕はカルビクッパを食べていた。
 数年で閉店してしまったけど、僕はその店のカルビクッパが好きで、ひとりで食べに入ることが多かった。
 ライブに韓国の女の子が観に来てくれたことがあって、僕が、
「あにょはせよー」
 と挨拶したら、向こうも挨拶を笑顔で返してくれたことがあった。
 挨拶は、いろいろ覚えておくと良いよね、ってそのとき、とても思った。

 僕はお昼に渋谷でカルビクッパを食べてから、高井戸に戻る。
 部屋に戻ってだらだらしてから、環状八号線沿いを歩く。
 目的地は安さの殿堂、ドンキホーテ。
 そこで僕は「まいっちんぐマチ子先生」の100円ライターを四個買う。
 部屋に戻ってだらだら〈ケータイ小説〉を書いてコーゲツに送信すると夕方になってきたので、下北沢に向かう。
 シモキタでミシナのバンドのライブがあるのだ。
 僕は下北沢駅で降りて、とぼとぼひとりで歩く。
 その頃はGPS付きの携帯電話なんてなかったけど、場所は知っていたので、道に迷うことはなかった。







 下北沢の、その新しく出来たばかりのライブハウスの外にあるスクリーンに、フィッシュマンズのライブ映像が映し出されていた。
 曲は『ウォーキング・イン・ザ・リズム』。
 フィッシュマンズの曲の中でも、僕が大好きな楽曲のひとつだ。
 その路上スクリーンには、生前最後のライブを行っている、ギターボーカルの佐藤伸治の姿。
 僕はしばし立ち止まって、フィッシュマンズのライブを観る。

 メタ的なことを言ってしまうと、今、お読みになられているこの小説のタイトルは『密室灯籠』という名前だ。
 ミステリっぽい名前である。
 実は、書くのを省略したが、ミシナのライブを観に来たその日の前の時点で、僕は二回ほど病院に収容されている。
 特に、二回目は自殺未遂で、それはドメスティック・バイオレンスが主原因なのだが、目を覚ましたときに、医者らしき人物が僕に、
「なんでこんなことをしたのか、理由は?」
 と、訊くので、僕は、
「さぁ? わかりません」
 と、答え、その話はそこで消えて、僕自身が悪いことになった。
 が、この〈殺人〉には、犯人がいる。
 今まで黙っていたけれども。

 僕は未遂で済んだけど、佐藤伸治は死んでしまった。
 僕は、死んでしまった佐藤伸治の姿を、目に焼き付ける。

 この小説は、僕を殺した犯人たちも描かれているが、それが誰と誰なのかは、想像に任せたいと思う。

 閑話休題。
 僕は下北沢で、フィッシュマンズの音楽が流れるライブハウス内に、入っていく……。




〈次回へつづく〉
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成瀬川るるせ:語り手

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