第127話 太陽を掴んでしまった【1】
文字数 1,443文字
これを書いているのは2022年6月15日である。
その今年。
アメリカ料理とホームメイドパイを提供するレストラン『アンナミラーズ』の日本唯一の店舗「アンナミラーズ高輪店」が、8月31日をもって閉店することが決まったそうだ。
僕には、吉祥寺のアンナミラーズというファミレスに行ったらお姉さんじゃなくて執事さんが出てきてびびった、という小噺もある。
オペラシティにも確かアンナミラーズがあった気がしたが、よく覚えていない。
2004年、僕はオペラシティに何度も行ったり通過したりすることになるが、今は2003年の話を、書いている。
その頃は、アンナミラーズも元気だった。
制服がとても有名で、上述のように僕はその制服が大好きだったので、入店したらウェイトレスじゃなくて、執事服のウェイターさんが現れたので、衝撃を受けたのであった。
制服を観察するのが目当ての客だと思われたのだろうか。
否定はしないが。
それはそれとして、最後に残った品川のアンナミラーズが閉店は、哀しい。
☆
商売には、続く歴史もあれば、終わる歴史もある。
アンナミラーズが幕を閉じるということで、またしても時代の流れを感じるのである。
僕のバンド稼業も、危うさを、最初から秘めながら、突き進んでいた。
続く歴史となるか、終わりが来るのか。
2003年の夏、交通警備員として世田谷区を中心に毎日現場を転々としていた僕には、目の前を見るのが精いっぱいで、後先なんて考えなかった。
バンドさえあれば、生きていけると思っていた。
で。
そのバンドメンバーなのだが、ファミレスで頼んだ注文を待っていると、カケとドラムが、ほおづえを突いて、アンニュイな雰囲気を醸し出していた。
二人の向かいの席に座っている僕は、
「おまえら、なにやっているのだ?」
と、確認してみた。
ドラムが応じる。
「今日、〈君もあややになれる〉っていう記事が載っていた雑誌を見つけてねー。試しているんだよ」
「は? はぁ」
僕は頷いた。
あやや、とは、アイドルかなにかの名前なのだろう。
帰郷してから、それは漫画『ハチミツとクローバー』のシーンのひとつを二人が模した、そういう言動だと知ることになる。
それをそのときの僕は、知ることはなかった。
住んでいる高井戸の隣町が浜田山だし、興味湧いて読むし、シーンの真似くらいするよね。
そして僕は、二人で知らない秘密を共有していることに、敏感になるべきだった。
「ファミレスボンバー!」
と、僕は唐突に、うめくような声で叫んだ。
脈絡がないけど、ファミレスでそのとき、ライブの反省会をしていたので、場の空気を変えようと無意識下で直感して叫んだ、のだと思う。
僕らは、打ち上げはやらない。
反省会を、毎回行っていた。
場所は、点在するファミレスを使うことが多かった。
前述のアンナミラーズでホールケーキを丸ごと頼んで三人で食べたこともあるくらいだ。
だが決して、これは打ち上げではないのであった。
僕らがファミレスで反省会をしていると、携帯電話のメール着信があった。
のぞき込むと、
「るるせー。小説を読んだぞー」
と、いう内容。
その後、もう1通、メール。
「近々わたしたちのバンドもライブやるから観に来なよ。メンバーとじゃなくて、一人で来てねっ!」
ミシナからのメールだった。
「行くよ」
僕はそっけなく返事をメールで、した。
「ありがとー、るるせ!」
僕はその数日後、ミシナがライブを行う下北沢までへと向かう。
〈次回へつづく〉
その今年。
アメリカ料理とホームメイドパイを提供するレストラン『アンナミラーズ』の日本唯一の店舗「アンナミラーズ高輪店」が、8月31日をもって閉店することが決まったそうだ。
僕には、吉祥寺のアンナミラーズというファミレスに行ったらお姉さんじゃなくて執事さんが出てきてびびった、という小噺もある。
オペラシティにも確かアンナミラーズがあった気がしたが、よく覚えていない。
2004年、僕はオペラシティに何度も行ったり通過したりすることになるが、今は2003年の話を、書いている。
その頃は、アンナミラーズも元気だった。
制服がとても有名で、上述のように僕はその制服が大好きだったので、入店したらウェイトレスじゃなくて、執事服のウェイターさんが現れたので、衝撃を受けたのであった。
制服を観察するのが目当ての客だと思われたのだろうか。
否定はしないが。
それはそれとして、最後に残った品川のアンナミラーズが閉店は、哀しい。
☆
商売には、続く歴史もあれば、終わる歴史もある。
アンナミラーズが幕を閉じるということで、またしても時代の流れを感じるのである。
僕のバンド稼業も、危うさを、最初から秘めながら、突き進んでいた。
続く歴史となるか、終わりが来るのか。
2003年の夏、交通警備員として世田谷区を中心に毎日現場を転々としていた僕には、目の前を見るのが精いっぱいで、後先なんて考えなかった。
バンドさえあれば、生きていけると思っていた。
で。
そのバンドメンバーなのだが、ファミレスで頼んだ注文を待っていると、カケとドラムが、ほおづえを突いて、アンニュイな雰囲気を醸し出していた。
二人の向かいの席に座っている僕は、
「おまえら、なにやっているのだ?」
と、確認してみた。
ドラムが応じる。
「今日、〈君もあややになれる〉っていう記事が載っていた雑誌を見つけてねー。試しているんだよ」
「は? はぁ」
僕は頷いた。
あやや、とは、アイドルかなにかの名前なのだろう。
帰郷してから、それは漫画『ハチミツとクローバー』のシーンのひとつを二人が模した、そういう言動だと知ることになる。
それをそのときの僕は、知ることはなかった。
住んでいる高井戸の隣町が浜田山だし、興味湧いて読むし、シーンの真似くらいするよね。
そして僕は、二人で知らない秘密を共有していることに、敏感になるべきだった。
「ファミレスボンバー!」
と、僕は唐突に、うめくような声で叫んだ。
脈絡がないけど、ファミレスでそのとき、ライブの反省会をしていたので、場の空気を変えようと無意識下で直感して叫んだ、のだと思う。
僕らは、打ち上げはやらない。
反省会を、毎回行っていた。
場所は、点在するファミレスを使うことが多かった。
前述のアンナミラーズでホールケーキを丸ごと頼んで三人で食べたこともあるくらいだ。
だが決して、これは打ち上げではないのであった。
僕らがファミレスで反省会をしていると、携帯電話のメール着信があった。
のぞき込むと、
「るるせー。小説を読んだぞー」
と、いう内容。
その後、もう1通、メール。
「近々わたしたちのバンドもライブやるから観に来なよ。メンバーとじゃなくて、一人で来てねっ!」
ミシナからのメールだった。
「行くよ」
僕はそっけなく返事をメールで、した。
「ありがとー、るるせ!」
僕はその数日後、ミシナがライブを行う下北沢までへと向かう。
〈次回へつづく〉