第78話 アオハル・ストライド【4】

文字数 1,210文字

 僕はかなしいくらい作家で、研究家ではない。
なにかに詳しいということもなく、ただ、表層を滑るように知識をつまみ食いしては執筆の糧にするだけの人間である。
 貪欲さも、今はなくなってしまった。
 なにかないかなー、と考えていたのだけど、そういや、Apple Musicに加入してからというもの、テクノやダンスミュージックやジャズを、聴く機会が増えた。
 なんなら、クラシックも齧るようになった。
 その多くは作業BGMなのでいい加減な態度で聞き流しているので、聴いているとは言い難いけれども、聴かないひとたちよりは音楽に親しんでいるように思う。


 ダンスミュージックとどこで出会ったか、というと、エイフェックスツインのDJプレイを、リチャード・D・ジェイムスがお忍びで現れて、少ない人数の現場でプレイしたのを聴いて踊ったのが決定的だったと思う。
 それは2000年の、夏。
 フジロックフェスティバルの、その日の全公演が終了し、レッドステージという小さい小屋でDJが皿回しをしている空間での、午前三時か四時の話である。
 そこは僕と、僕に同行したカケが昼間、二百人収容できるか怪しいそのレッドステージの小屋でグレイプバインの演奏を聴いた場所と同じ場所で、だった。
 マンチェスター出身のOasisを高校三年生の時によく聴いていた僕は、そのときはまだマッドチェスターというダンスミュージックの存在を知らなかったし、やはり高校三年のとき、インストしか聴けないほど神経が摩耗した頃に手に入れたエイフェックスツインの『アンビエントワークス』を聴いていて、でもコーンウォールのこともよく知らなかった。
 だけど、英国に対する憧れが強かったと思う。
 いや、アメリカのシアトルの、NIRVANAは大好きだったけども。
 高校二年生の時、パールジャムを聴いて、グランジに心惹かれるものがあり、グランジ勢も好きだった僕は、テクノも、濁った音を使いこなすタイプのミュージシャンが好きだった。
 おっと、どんどん話が逸れていくな。
 僕は、かなりボーダーレスに音楽を摂取している。
 音楽は国境を越える。
 素晴らしいことじゃないか。
 そんな音楽の話に、これからこの物語は、変わっていく。
 演劇の話に一区切りがついたら、そこからは。
 文学と音楽の物語だ。
 友情と裏切りの物語だ。


 僕の青春って、いつだったのだろうか。
 僕はいつだったか、「青春は終わらない」と自作曲で歌った、ライブで、何度も、繰り返し。
 今も青春を送っていると、錯覚することがあるし、あながち間違っていない歌詞をつくったのかもしれないな、僕は。


 では、次の章へ進もう。
 物語は、あと少しでカタストロフを迎えるだろう。
 でも、しばらくだけ、僕にお付き合いもらいたい。
 ロックンロール・イズ・ネバー・ダイ。
 色褪せるよりも燃え尽きた物語を、これから語ることになる。
 綴っている僕も、心してかかりたいと思う。




〈了〉
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成瀬川るるせ:語り手

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