第135話 言葉こそが原初の炎であり【4】
文字数 1,227文字
数度目の出演になるライブハウス、国分寺モルガーナ。
10月。
外はまだ寒くない。
僕らは、昼間、〈逆リハ〉を行う。
逆リハとは、主演する順番の反対、つまりその日のトリのバンドからリハーサルを行うことを言う。
逆リハが終わり、時間が出来たので、ライブに遊びに来てくれたコーゲツと話をする。
コーゲツは一冊の古雑誌を持っていた。
『国文學』の、筒井康隆特集号である。
筒井康隆が、ジャズドラムを叩いている写真や、「疑似イベント物」と呼ばれた、若き日の筒井康隆の作風について論じている、記憶によると1970年代頃の特集号だった。
「最近はおまえのライブにも顔を見せてなかったからさ。今夜のステージを見せてもらうよ」
そう言ってコーゲツは、国分寺モルガーナ近くの古本屋に吸い込まれるように入って行き、僕はそれを見遣ってから、ステージドリンクを買うためにコンビニへと向かった。
☆
僕らのライブが始まる冒頭、僕はスポットライトに照らされながら、最前もらった『国文學』のページを開き、こう、言った。
「言葉こそが原初の炎であり、また、最終兵器である。————筒井康隆」
正確に言うとこれは筒井御大の言葉ではなく、『国文學』にあった見出しだか内容だかから抜粋した言葉だった。
だが、この短い朗読でオーディエンスのこころを掴めた僕らは、そのときに出来る最高の演奏を行った。
☆
出番を終え、楽屋に戻ると、そこにはスーツ姿の二十代後半くらいの男性がいた。
スーツの男は、ドラムとベースに、名刺を渡している。
息切れしている僕の方を振り向いたその男は、僕にも名刺を差し出した。
「ミリオンラバーレコードの者です。素晴らしい演奏でした。あなたがギターボーカルの方ですね。作詞作曲も担当されていると、メンバーさんから聞きました。我々の出すインディーズ盤のコンピレーションアルバムにぜひ、あなた方の楽曲を入れたいと思っています」
なんと、インディーズへのお誘いであるッッッ!
これはつまり、僕らのバンドが、インディーズデビュー出来るってことだ!
「ヒャッハーーーーーーーーッ!」
僕は飛び上がって喜んだ。
僕らの活動が実を結ぶぞ!
舞い上がって、舞い上がって、僕は最高潮になっていた。
インディーズ契約も、交わした。
「そうだ、コーゲツにも知らせよう!」
僕は携帯電話を取り出すと、電話をかけた。
「僕のバンド、インディーズ契約したぜ!」
すると、電話口のコーゲツは怒りと泣きそうな声を入り交えて、こう漏らす。
「ライブ、観たよ。おまえは〈本物〉になっちまった。〈本物〉であるおまえとなんかもうやってられない! おまえはもう、おれと一切関わらないでくれ! じゃあな!」
まくし立てるように言うと、コーゲツは電話を切り、着信拒否になった。
そして、僕の〈ケータイ小説〉のサイトのアカウントは全削除されて跡形もなくなっていたのであった。
僕はどうして良いかわからず、ただただ混乱するばかりだった。
〈了〉
10月。
外はまだ寒くない。
僕らは、昼間、〈逆リハ〉を行う。
逆リハとは、主演する順番の反対、つまりその日のトリのバンドからリハーサルを行うことを言う。
逆リハが終わり、時間が出来たので、ライブに遊びに来てくれたコーゲツと話をする。
コーゲツは一冊の古雑誌を持っていた。
『国文學』の、筒井康隆特集号である。
筒井康隆が、ジャズドラムを叩いている写真や、「疑似イベント物」と呼ばれた、若き日の筒井康隆の作風について論じている、記憶によると1970年代頃の特集号だった。
「最近はおまえのライブにも顔を見せてなかったからさ。今夜のステージを見せてもらうよ」
そう言ってコーゲツは、国分寺モルガーナ近くの古本屋に吸い込まれるように入って行き、僕はそれを見遣ってから、ステージドリンクを買うためにコンビニへと向かった。
☆
僕らのライブが始まる冒頭、僕はスポットライトに照らされながら、最前もらった『国文學』のページを開き、こう、言った。
「言葉こそが原初の炎であり、また、最終兵器である。————筒井康隆」
正確に言うとこれは筒井御大の言葉ではなく、『国文學』にあった見出しだか内容だかから抜粋した言葉だった。
だが、この短い朗読でオーディエンスのこころを掴めた僕らは、そのときに出来る最高の演奏を行った。
☆
出番を終え、楽屋に戻ると、そこにはスーツ姿の二十代後半くらいの男性がいた。
スーツの男は、ドラムとベースに、名刺を渡している。
息切れしている僕の方を振り向いたその男は、僕にも名刺を差し出した。
「ミリオンラバーレコードの者です。素晴らしい演奏でした。あなたがギターボーカルの方ですね。作詞作曲も担当されていると、メンバーさんから聞きました。我々の出すインディーズ盤のコンピレーションアルバムにぜひ、あなた方の楽曲を入れたいと思っています」
なんと、インディーズへのお誘いであるッッッ!
これはつまり、僕らのバンドが、インディーズデビュー出来るってことだ!
「ヒャッハーーーーーーーーッ!」
僕は飛び上がって喜んだ。
僕らの活動が実を結ぶぞ!
舞い上がって、舞い上がって、僕は最高潮になっていた。
インディーズ契約も、交わした。
「そうだ、コーゲツにも知らせよう!」
僕は携帯電話を取り出すと、電話をかけた。
「僕のバンド、インディーズ契約したぜ!」
すると、電話口のコーゲツは怒りと泣きそうな声を入り交えて、こう漏らす。
「ライブ、観たよ。おまえは〈本物〉になっちまった。〈本物〉であるおまえとなんかもうやってられない! おまえはもう、おれと一切関わらないでくれ! じゃあな!」
まくし立てるように言うと、コーゲツは電話を切り、着信拒否になった。
そして、僕の〈ケータイ小説〉のサイトのアカウントは全削除されて跡形もなくなっていたのであった。
僕はどうして良いかわからず、ただただ混乱するばかりだった。
〈了〉