第37話 成瀬川るるせと新世界【1】

文字数 1,488文字

 僕は現在、ウェブ小説を書くことをしている。
 ちゃんとウェブに身を置いたのは、2003年の魔法のiらんどのときを抜かせば、ノベルデイズに登録してからがはじめてである。
 つまり、ノベルデイズがサービスを開始した2018年の夏の終わりから、ウェブで小説を本格的に書き始めたことになる。
 それまでの空白の時期は、文芸雑誌に小説を投稿する活動をしていた。
 トークメーカーが講談社になってノベルデイズという名前でリニューアルするのと同時に、僕は登録して、小説をぽつぽつ書くようになった。
 それまでは、あまり他人に読んでもらうことを考えていなかった。
 今、2021年である。
 そのタイミングで僕は、2003年の小説をリライトしている。
 それが今、お読みいただいているこの小説だ。







 三島由紀夫は最初、『花ざかりの森』など、わかる奴にしかわからない系の短編を書いていた。
 そこに、雑誌の編集者が、
「自分の自己紹介になるような作品を書いてみては如何ですか」
 と、長編の依頼をした。
 それで出来たのが『仮面の告白』だ。
 自己紹介の私小説なだけあって、読んでおくと、のちに三島が書く『金閣寺』で、主人公が〈美しいものに対するコンプレックス〉を持っている故に金閣寺を燃やすに至る心情は、三島自身のコンプレックスが生み出したことがわかるようになる。
 ただ時事を扱ったわけではなく、本人のこころに根ざしたものが、彼に『金閣寺』を書かせたのだ、とわかるようになる。
 その後、ボディビルで〈他人に見せる身体〉を持つに至るその考えの根幹にあるものも、『仮面の告白』を読んでおくと、もちろん予想できるようになる。
 本人は世界一周旅行でギリシアに行った体験によってだ、と語るが、である。

 自己紹介の私小説は、それほどまでに大切なものなのだ。
 だが、諸刃の剣でもあって、自分にも牙を剥くのが、私小説だ。
 自分の内側を無防備にさらけ出すのは、リスクが高い。







 例えば、フランス革命を語るときに欠かせないのはルソー『社会契約論』であるが、ルソーが生前、祝福されたのは一時期だけであることも、その問題と繋がる。
 ルソーは『エミール』などの啓蒙書を書いているのに、自伝である『告白録』では、性的に逸脱していた過去をさらけ出したことなどから、非難の的となる。
 晩年は、森を一人で散策しながら、『孤独な散歩者の夢想』というエッセイで人間嫌いになってからの悲しい孤独な、愚痴混じりの文章を書いて生涯を閉じた。
 ルソーは、やるせなかったと思う。
 僕は『孤独な散歩者の夢想』も読んだけど、悲しい気分になった記憶がある。
 これがあのジャン=ジャック・ルソーなのか、と。
 そのくらい、自分をさらけ出した文章は、自分に牙を剥く。







 知り合いの姫宮さんという方に暑中見舞いをLINEでしたら、「身体張ってるねー」と言ってもらえた。
 嬉しかった。
 身体張っているのである、いつだって、僕は、小説を書いているときも。
 ほかの作品でもギリギリなことをやっているけど、この私小説もまた、ギリギリ……いや、〈ギリ・アウト〉な小説である。
 これをウェブでやるのは、リスキーなのは自分でもわかっている。

 だが、書くしかなかったし、これから先も、もうちょっとだけ続くのじゃよ。

 この作品は、時系列を意図的にバラバラにして書いている。
 読みづらいかもしれないが、頑張ってほぼ一話完結式にしているので、その点では読みやすいとは思うので、それで許してね、と思っている。
 自分で言うのも変だけど、僕は僕のアティチュードを見せていくからね、よろしく!




〈次回へつづく〉
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成瀬川るるせ:語り手

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