第63話 メビウス・アッシュ【4】

文字数 1,117文字

 ライブコンサートの本番中、ステージに立っているひとで僕にめがけて物を投げて、思い切り僕の顔面にぶち当てた奴は、僕の人生の中で二人しかいない。
 その二人とは、アニメタルのサポートドラマーのシンキさんと、声優の上坂すみれの二人だ。
 シンキさんは、ドラムスティックを僕の顔面にぶち当て、そして上坂すみれはフリスビーを僕の顔面にぶち当てた。

 今回は、その二回の、ぶつけられた話について、数回にわけて記述しようと考えている。







「よぉ、るるせっちー。るるせっちーにもパー券あげるぜー」
「パー券? ああ、ライブチケットかぁ。誰の?」
「シンキさんの出演するライブ! 知り合い特価で!」
「シンキさん、なんのバンドで?」
「アニメタル!」
「あ。行く! 絶対行く!」
「るるせっちーにも渡せって言われてたんだよ、パー券」
「で、いつ、どこでやるの?」
「今日の夜。場所はオンエアーウェスト!」
「マジかぁ! 行く行く!」
「待ち合わせしよう。一緒に行こうぜ、るるせっちー」
「おう!」

 シンキさんの弟子からチケットをもらった僕は、このシンキさんの弟子たちとアニメタルのライブコンサートに行くことにした。







 アニメタルとはどんなバンドか。
 それは、アニメソングをヘヴィーメタルアレンジしたものを演奏する企画物バンドだ。
 ボーカルは〈アンセム〉のボーカリスト・さかもとえいぞうさんだ。
 ベースのマサキさんは、見たことはあったが、挨拶を交わしたことはなかった。
 面識はないに等しく、互いに素通りしていた感じだ。
 そして、チケットをくれたシンキさんは、アニメタルレディーという女性バンド版のアニメタルも手伝っている、サポートドラマーだ。
 ちなみにLINEのタイムラインで見たところ、今ではシンキさんの娘さんたちはヒップホップのひとになったようだ。
 よくわからないけども、そうであるらしい。
 シンキさんというひと自体、音楽をやりたくてアメリカに若いときに留学していたひとだ。
 本場の音楽を知っているひとだから、子供さんたちも手練れとなっていることだろう。
 それはさておき。
 アニメタルのライブを観れるの最高じゃん、と思い、無理矢理無料でチケットをもらうことに成功した僕は、道玄坂二丁目との境にある、音楽とラブホテル街を足して二で割ったような渋谷区円山町にある、オンエアーウェストへと向かった。
 晴れた日だった。
 その日は、シンキさんの弟子たちと行動を共にした、意外とめずらしい日であった。
 当時、アニメタルは勢いのあるバンドだったし、今も伝説のバンドとしてその名が刻まれている。
 僕はウキウキした気持ちで歩く。
 歩いている場所はそういうわけでラブホ街なのだがッ!






〈次回へつづく〉
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成瀬川るるせ:語り手

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