第101話 見る前に跳べ【3】

文字数 833文字

 これを書いている現在は2022年の3月である。
 今年4月から、徳間文庫から『打海文三Memories of the never happened』の刊行が始まる。
 第一作目は『ロビンソンの家 (Rの家)』だ。
 この『密室灯籠』でも打海文三氏は何度も登場してきているが、それというのも彼は僕の年の離れた知り合いであり、また、人生の師匠だったからだ。
 打海さんは、家族と一緒に町営住宅に住んでいて、僕は打海さん宅によく遊びに行っていたのだ。
 打海文三は僕にとってヒーローだった。
 いや、亡くなった今でも、僕のヒーローだ。
 彼が亡くなったとき、家の二階の寝室&仕事部屋から、一階の仏間まで運んだのは僕だった。
 実は『ロビンソンの家』の主人公のモデルは僕である。
 打海さん本人がそう言っていたのだから、間違いはない。
 息子さんなどに尋ねれば「そうだよ。るるせが主人公のモデルだ」と返してくれるだろう。
 そんな来月刊行作品、宮内悠介さんが解説、帯は伊坂幸太郎さんの予定だ、という。
 打海作品が多くの方に読まれることを僕は望む。







 高校卒業後すぐに、友人のギンが、
「おれと上京しようぜ」
 と、誘ってくれた。
 だが、それを親に話したら激怒されて、上京出来なかった。
 その一年後、ギンのライバルであるコーゲツが、
「おれと上京しようぜ。おれの部屋で暮らせばいい」
 と、誘ってくれたが、親から怒られ、ダメだった。
 なので僕は、自分でバイトをして、お金を稼いでから上京することにした。
 高校卒業後から上京するまでの間は、横溝正史賞作家であり大藪春彦賞作家である、打海文三氏の家に足しげく通って、話をたくさん聴いた。
 打海さんがいなければ、今の僕はいなかっただろう。

 ギンやコーゲツの誘いを断った僕だったが、軍資金がたまって上京する段となったとき、カケに、
「上京しようぜ」
 と、持ちかけてしまった。
 それがあだになるとは思いもせず。
 そんなこんなで、僕の上京編が、始まるのである。



〈了〉
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成瀬川るるせ:語り手

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