第84話 YAMAHA:QY100【5】

文字数 932文字

 僕は、上京するために、アルバイトをすることにした。
 選んだ場所は、カラオケボックスだった。
 働いているうちに、高校生の頃、テレビの深夜番組『ひとりごっつ』内でやっていた〈面雀〉(おもじゃん、と読む)を思い出すに至った。
 何故なのか。

 今回は、そんなカラオケボックスの思い出話だ。







 受け付けで僕がぼーっとしていると、アルバイトの美形の兄ちゃんたちが、監視カメラのモニタを使って、テレビゲームをしている。
 レーシングゲームの、耐久レースのモード。
 数時間、ずっと走り続けるという内容である。
「耐久レース、面白いんですか?」
 と、僕。
「いや、つまらねぇ」
 と、美形1号が言う。
「暇つぶしだよね」
 美形2号も、そんなことを言う。
 ふ〜む、と僕が唸っていると、店長の嫁さんが僕ににじり寄ってきた。
「るるせ。あんたはピアスの穴を開けなさい。一人じゃできないのでしょ。だったら仕方ないなぁ、お姉さんが、グサリ、とピアッサーで穴を開けてあげるからさぁ。ピアッサーを買っておいでよ。にひひひひ」
「え、えぇ……?」
 挙動不審になる僕。
 結果から言うと、僕は自分でピアッサーによって耳たぶに穴を開けた。
 店長の嫁さんは、空いたピアス穴を触って、舌打ちした。


 定休日になる、その夜中。
 店長のマンションの一室で、自動麻雀卓がじゃらじゃら音を立てる。
 煙草の煙で充満した室内。
 僕はやらず見学するだけだったが、定休日の夜中は、みんなで麻雀をやる日だった。


 僕は、麻雀を覚えたことがあったが、すぐに辞めてしまい、ルールも忘れてしまった。
 友人のギンと、プロ作家・打海文三の奥さんとの三人、またはそこに近所のひとが来て加わっての四人で、麻雀をやる機会が、高校生時代に、何度かあった。

 だが、麻雀が強いって奴は、本当に強い。
 そのような、そんじゃそこらの腕じゃ勝てないひとりが、打海文三の奥さんだった。
 強い。
 とにかく強い。
 チートなんじゃないか、と疑ってしまうほどだが、そういうわけではない。
 理屈はちゃんと、ある。
 理屈を聞いて、のろまな僕では麻雀は無理だな、と思って手を切った。
 そういうこともあり、アルバイト先のカラオケボックスでも、麻雀をやるのを避けたのであった。





〈次回へつづく〉
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成瀬川るるせ:語り手

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