第69話 真夏の夜のサクリファイス【4】
文字数 894文字
僕がなぜ、保健室にやってきたか、というとメアリーが保健室登校になってしまったからだ。
僕は一時間、一時間、授業の点呼があるたびに教師に返事だけして、保健室や、保健室と茶道部部室の横の自習室にひとりでいるメアリーと会いに、授業中抜け出してやってくることになった。
授業が終わる少し前に自分のクラスに戻り、教師に、
「戻りましたー」
と言って、席に座る。
休憩時間はイヤホンで音楽でも聴いて過ごし、次の授業が始まったらまた点呼だけ応えて保健室へ。
その後、授業が終わる前に戻って、
「戻りましたー」
で、ある。
なかなかにハードである。
癒やしとなったのは、事務イスで湯飲みから茶を飲むサトミ先生と会話することくらいだった。
サトミ先生は、もちろん保健体育のエキスパートだ。
生徒のメンタルに関しても、詳しい。
頼りになった。
メアリーにだけでなく、僕にも。
サトミ先生が、メアリーは自習室で勉強している、というので部屋に入ると、メアリーが数学の問題を解いて、ノートに答えを書いている。
「やぁ」
僕が言うと、イスに座りながら、メアリーが僕を招き寄せる。
それから耳元で、
「遊びだけ。ね? しよ?」
と、囁く。
そんなことしたら退学だろう。
僕は躊躇する。
だが、この子は僕が拒否したら、ほかの男にそれをやらせるだろう。
僕はメアリーの後ろにまわって、スカートの中で指を這わせる。
「勉強。これは勉強なの」
くすくす笑うメアリー。
サトミ先生がいなければ精神が崩壊するところだった。
僕は、なにをやっているのだろう。
そう。
演劇部でこの子は、ヒロイン役に抜擢されたのだ。
だから、あの手、この手で放課後、部室に連れていくのだ。
気が狂いそうななか、僕は高校三年生の一学期を生きる。
愛液まみれのこの指で、もう詩を綴るなんておこがましいことはできそうになかった。
僕は散文詩を書くようになっていた。
蝕まれるとは、こういうことを言うのか。
夢魔を愛するとは、こういうことなのか。
真夏の夜の喜劇の供犠は、どうやら僕だったようだ。
僕はどうしていいか、わからなかいまま、それでも進む。
〈次回へつづく〉
僕は一時間、一時間、授業の点呼があるたびに教師に返事だけして、保健室や、保健室と茶道部部室の横の自習室にひとりでいるメアリーと会いに、授業中抜け出してやってくることになった。
授業が終わる少し前に自分のクラスに戻り、教師に、
「戻りましたー」
と言って、席に座る。
休憩時間はイヤホンで音楽でも聴いて過ごし、次の授業が始まったらまた点呼だけ応えて保健室へ。
その後、授業が終わる前に戻って、
「戻りましたー」
で、ある。
なかなかにハードである。
癒やしとなったのは、事務イスで湯飲みから茶を飲むサトミ先生と会話することくらいだった。
サトミ先生は、もちろん保健体育のエキスパートだ。
生徒のメンタルに関しても、詳しい。
頼りになった。
メアリーにだけでなく、僕にも。
サトミ先生が、メアリーは自習室で勉強している、というので部屋に入ると、メアリーが数学の問題を解いて、ノートに答えを書いている。
「やぁ」
僕が言うと、イスに座りながら、メアリーが僕を招き寄せる。
それから耳元で、
「遊びだけ。ね? しよ?」
と、囁く。
そんなことしたら退学だろう。
僕は躊躇する。
だが、この子は僕が拒否したら、ほかの男にそれをやらせるだろう。
僕はメアリーの後ろにまわって、スカートの中で指を這わせる。
「勉強。これは勉強なの」
くすくす笑うメアリー。
サトミ先生がいなければ精神が崩壊するところだった。
僕は、なにをやっているのだろう。
そう。
演劇部でこの子は、ヒロイン役に抜擢されたのだ。
だから、あの手、この手で放課後、部室に連れていくのだ。
気が狂いそうななか、僕は高校三年生の一学期を生きる。
愛液まみれのこの指で、もう詩を綴るなんておこがましいことはできそうになかった。
僕は散文詩を書くようになっていた。
蝕まれるとは、こういうことを言うのか。
夢魔を愛するとは、こういうことなのか。
真夏の夜の喜劇の供犠は、どうやら僕だったようだ。
僕はどうしていいか、わからなかいまま、それでも進む。
〈次回へつづく〉