第109話 Journey’s End【1】

文字数 1,143文字

 大槻ケンヂさんのバンドのサポートベーシストの高橋竜さんが、ビジュアル系小噺を僕にする。
「エックスジャパンは、アマチュアの頃から不思議なバンドだったよ」
 ふむ、と頷く僕。
「ヨシキというひとは、ほかのみんなが音楽雑誌を読んでいるなか、ひとりだけ経済学の本を読んでいた。当時から異彩を放っていたよ。そして、ビジュアル系っていうのは先輩後輩に厳しいところがあって、体育会系で、飲み会をやると酒をたくさん後輩に飲ませるのだが、それでやいのやいのやっているなかで、それに関わらないで端の方でちびちびマイペースに酒を飲んでいるのがhideだった」
 なるほどなぁ、と思う僕。
 そんな僕は、竜さんの話を聴いたあと、渋谷ブックファーストに本を買いに行く。







 打海文三氏が、僕にこんなことを言ったことがある。
「ビジュアル系っていうのが音楽にあるだろう。今、流行っている〈J文学〉と呼ばれる一群の作家や作品も、ビジュアル系だ」
 その言葉を踏まえた上で、僕は渋谷をうろつく人間として、〈J文学〉の旗手と呼ばれていた阿部和重さんの作品を買いにブックファーストまで行く。
 今でこそ、〈神町サーガ〉などにより本格派で、日本の文学で重要な立ち位置にいる阿部和重という作家だが、デビュー当時は渋谷を舞台に小説を書いていた。
 ある雑誌のインタビューである作家が、
「J文学っていうのは〈渋谷で戦争が起こる〉っていう小説なのだとばかり思っていた」
 と、発言していたことがある。
 渋谷で戦争が起こる、というのは、明らかに阿部和重氏の作品を指して言った発言だろうと思われる。
 僕は阿部和重『アメリカの夜』『ABC戦争』『インディヴィジュアル・プロジェクション』『無情の世界』を渋谷ブックファーストで買って、読んだ。
 素晴らしかった。
 小説を僕も書くしかないな、と思った。
 当時、小説修業をしながらメール職人をしていたコーゲツにも、阿部和重作品をブックファーストに連れて行って教えたら、喜んでくれた。
 ビジュアル系上等である。
 何故なら音楽のビジュアル系も好きだから。
 そして、音楽でも、ビジュアル系は〈脱皮〉していったし、〈J文学〉として売り出された作家たちも、それぞれ〈脱皮〉していくのを、僕らはこの目で見ていくことになる。


 そんなこんなで日々を過ごしていると、カケが上京する数日前に、演劇部の時の部長が僕に電話をしてきた。
「ねぇ、みんなで集まらない?」
 部長が電話をかけてきたのは、中島らもさんがアル中体験を語る番組がやっている時に、
「今すぐテレビをつけて観ろ!」
 と言ってきた時以来だった。

 そして、僕の部屋に、ギンとコーゲツというライバル視し合う二人と、部長と部長の彼氏が一堂に会することになったのである。




〈次回へつづく〉
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成瀬川るるせ:語り手

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