第121話 常陸牛乳【1】

文字数 1,629文字

 中学生のとき、コーゲツと共作して、文化祭の劇の脚本を書いて、仲間たちで演じた。
 また、僕はブラスバンドの指揮者をやる、というパフォーマンスをした。
 マントで姿を隠し、体育館の入り口からスポットライトを浴びて登場。
 スポットは歩く僕を照らす。
 薔薇の造花を口にくわえている僕はステージに上がり、マントを投げ捨てる。
 すると中に着ていた服はセーラー服。
 口にくわえた薔薇の造花を右手に構え、タクト代わりにして、セーラー服姿で吹奏楽部の指揮をする。
 コーゲツとの演劇も、僕は語り部でナレーションをしゃべるという役だが、最後の方で、メタフィクション的に、舞台に出ている登場人物にナイフで刺され、くたばる。
 刺した登場人物は、
「おれじゃない! フォーーーー!」
 と、言いながら逃亡する。

 だからなんだ、というと、僕はコーゲツとユニットを結成する予定だった。
 ユニット名は〈常陸牛乳〉。
 そのため、卒業アルバムの寄せ書きには、コーゲツは「常陸牛乳」と、いろんなひとの卒業アルバムに書きなぐった。
 で、実際にその〈常陸牛乳〉が活動していたと思われるのは、2003年の6月から、10月までの間だった。
 卒アルから、8年くらい後のことであった。







 三月に原宿ルイードでライブを行ってから、また僕らは沈黙していた。
 季節は過ぎて、いつの間にか六月になっていた。
 そんな六月のある日、雨の降る中、コーゲツが僕が住む部屋まで現れた。
「ケータイサイトって知っているか?」
 と、コーゲツ。
「ああ、iモードだし、知ってる」
 と、僕。
「最近、『魔法のiらんど』というサイトがオープンした。500文字までの日記が書けるiモードのサイトだ。その日記はケータイからも直接書き込める。バンドの広報がてら、連載したらどうだ、日記を」
 良い話である。
「やるやる!」
 僕は二つ返事をした。
「じゃあ、パソコンでおれが登録するから、直接投稿しないで、おれにメールで文面を送ってくれ。るるせのバンドのファンサイトというカタチにする。そこで、おまえは日記部分だけ連載すればいい。ほかの部分は全部おれに任せろ!」
 悪くない話だと思って僕はそのサイトの運営を、コーゲツに任せて、日記だけを書くことにした。
 日記は毎日続けた。
 500文字しか書けないので大変だったが、書くことは面白く、僕はいつしか、バンド日記にくわえ、回想録風の〈小説〉を書き始めた。
 日記のサイトだったが、僕は小説を、そこで書き始めた。
 僕のようにフィクションというカタチを取る投稿が増えてきたからか、いつしか魔法のiらんどは〈ケータイ小説〉という媒体の代名詞になる。
 僕は、そのコーゲツに掲載してもらっていた小説と、それからコーゲツがその僕の日記サイトを勝手に削除して閉鎖させてから逃亡したあとでミシナという女の子に個人的に送っていた日記小説のこの二つで、完全に小説の住人になった。
 僕はどうしようもないくらい〈物書き〉で、その自分のサガを知るのは、このときだった。

 僕のバンドは七月にライブの予定が立ったので、六月からスタジオに再度、こもるようになり、また、ケータイサイトで連載を毎日続ける日々を送り始める。
 そのケータイ小説こそがこの小説の原型であり、僕は今、二十年近く前に書ききれなかったその小説をリライトしているのがこの文章というわけだ。
 何度も書いているが繰り返しておくと、今、お読みいただいているのは、2003年に書いていた作品のリライトなのだ。
 僕は七月、自分の鍵を握ることになるミシナという女の子と渋谷某所でのライブで出会う。







 結成した僕らのバンド名は〈Major Tranquilizer〉。
 略して〈めじゃとら〉。
 バンド練習の場所を吉祥寺のペンタに移した僕ら〈Major Tranquilizer〉は、再始動し、それはまた、コーゲツとの念願のユニット、〈常陸牛乳〉を始動させたのも同時に意味したのだった。




〈次回へつづく〉
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成瀬川るるせ:語り手

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