第107話 僕の心を取り戻すために【6】

文字数 938文字

 繰り返される諸行無常、よみがえる性的衝動。
 コミュニケイションは不能。
 フィードバックは果てしなく続く。







 カケが引っ越して来る前に、高校の後輩、タカハシさんが西永福に引っ越してきた。
 西永福は僕の住む高井戸から、目と鼻の先である。
 引っ越してきたタカハシさんは、女性である。
 三歳年下の下級生である。
 そんな高校の下級生女子が、僕の部屋の近くに引っ越してきたのであった。


 僕は高校を卒業しても、しばらくの間、演劇部と保健室には顔を見せていたので、まあ、同じ部活の後輩として、タカハシさんとはよく話をする機会があった。
 電話がいきなりかかってきたので、どうしたのかと思ったら近くに引っ越してきた、ということで、僕は挨拶に伺うことになった。


「映画! 一緒に観に行きましょうよ!」
 タカハシさんが、そう言うし、ちょうど渋谷のシネマライズで『アメリ』が上映され始めたこともあって、僕はタカハシさんと『アメリ』を観に行くことにした。
 ちょうど観たかったんだよね、『アメリ』を。


 タカハシさんの部屋に入ったら、
「これから着替えて準備しますから! 絶対に見ないでくださいね!」
 と、カーテンを閉めるタカハシさん。
 部屋の隅のスペースがカーテン閉まるようになっていたのでそのカーテンを閉めたのだ。
 カーテンの奥でタカハシさんはもぞもぞと着替えを始めた。

 冷静に考えて見てほしい。
 僕と会う前に着替えれば良かったんじゃない?
 僕のそばではカーテンを閉めて女性が着替えていて、「見ないで」と言っている。
 もしかするとなんだが、これは「見てくれ」という〈フラグ〉かなんかか?
 そうとしか思えない。
「ねえ、珈琲飲みたいのだけれど、インスタント珈琲、どこにあるのー?」
 僕はカーテンを開けて、タカハシさんに尋ねた。
「いやぁーーーー!」
 座っていた僕の顔面に入る蹴り。
 僕はタカハシさんの下着姿を拝むことも出来ず、その場でうずくまって、蹴られた顔面から鼻血が出ていないか、チェックするはめとなったし、羽目を外すこともなく、健全に映画を一緒に行くことになったのだった。

 僕らは一路、単館系の映画をやるソリッドな劇場である渋谷のシネマライズを目指すのであった。
 なにがにやらだよ、ったく。






〈次回へつづく〉
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成瀬川るるせ:語り手

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