第14話 ガダラの悪霊【1】
文字数 1,457文字
入った演劇部は、夏から秋の数ヶ月の間は、基礎練と読み合わせなどをする以外は、ほぼなにもしないだらだらした、日常系漫画そのものみたいな部活だった。
部員は最初、三年の女性の先輩が一人と、僕と同じ学年である二年生の女性が一人の、二人しかいなかった。
そこに僕が入って頭数三人である。
入部直後に県北地区の合宿があって、その後地区大会があって、それが終わったあと、先輩はいなくなった。
当初はその、二年の女子の友達が5人くらい手伝いに来ていて騒いでいたのだが、大会も終わったところで部室には来なくなり、代わりに一年生の女の子がひとり、入部してきた。
二年生の女の子は部長となり、一年の女の子が副部長となった。
二年生の夏休みは、最初大人数でわいわいして、後半は基礎練をメインに、文学や小説の話をしながら有名な演劇の脚本などを漁る生活をすることになった。
☆
高校一年生の時だったろうか。
中島らもさんの小説、『ガダラの豚』がとても凄い小説だ、と耳にしたのは。
僕が人生の中でもっとも読み返した回数の多い小説はその、『ガダラの豚』である。
未だに、一年に一回くらいは読み返す。
ラストに至る時の主人公の設定と展開が漫画みたいなチープさはあるのだが、それは全く気にならないほどに、『ガダラの豚』は素晴らしい小説である。
中学高校時代、僕は詩を書いていたのだが、衝撃を受けて小説を本格的に書きたい、と思い至ったきっかけの小説は、中島らもさんの『超老伝』である。
僕と『超老伝』の出会いは、高校三年の冬、埼玉県に行った時であるから、今回の話のずっとあとのことだ。
その『超老伝』は、カポエラ使いの爺さんが弟子たちとともに戦っていく小説……のように見えなくもない、不思議なテイストの小説で、漫画っぽいけど漫画にしたら味がなくなるタイプの作品である。
実にらもさんらしい小説である。
中島らもさんと言えば『今夜、すべてのバーで』など、のちに読んでいく本がたくさんあるのだが、僕は、友人のギンと渋谷宇田川町のタワレコに行った折り、その〈凄い〉と言われていた小説の作者、中島らもさんが結成したバンド、ピスのファーストミニアルバム『ドント・ピス・アラウンド』を、インディーズのコーナーで見つけて、買ったことがトピックとしては大きい。
衝撃を受けたのだ。
作詞作曲、そして編曲の要となる〈リフ〉を中島らもさん本人がつくって、ボーカルとバッキングギターもらもさん本人が担当しているのだが、これがめちゃくちゃ格好良いのである。
なお、らもさんの本を読んで、あとで知ることになるのだが、この『ドント・ピス・アラウンド』は200枚しか売れなかったうえに、中島らもさんの担当編集者は、僕の年上の知り合いである……と、いうかもはや師匠であった打海文三氏の担当編集者と同一人物なのであった。
僕は中島らもさんのような〈ロックな存在〉になりたいと思った。
最高にロックな存在がらもさんだ、と僕は思ったし、それは今でも思っていて、だから未だに『ガダラの豚』を読み返す。
らもさんはコピーライターからそのキャリアを始めるが、小説家であり、ロックミュージシャンであり、そして……劇団「リリパット・アーミー」を主宰する脚本家であった。
そこで、僕が夜な夜なギター弾きながら歌い、文章を書くことだけでなく、演劇という線でも、僕の頭の中では、らもさんと自分のしている活動が接続された。
ここで、僕が演劇をやる、ということが自分の中で正当化されたのである。
〈次回へつづく〉
部員は最初、三年の女性の先輩が一人と、僕と同じ学年である二年生の女性が一人の、二人しかいなかった。
そこに僕が入って頭数三人である。
入部直後に県北地区の合宿があって、その後地区大会があって、それが終わったあと、先輩はいなくなった。
当初はその、二年の女子の友達が5人くらい手伝いに来ていて騒いでいたのだが、大会も終わったところで部室には来なくなり、代わりに一年生の女の子がひとり、入部してきた。
二年生の女の子は部長となり、一年の女の子が副部長となった。
二年生の夏休みは、最初大人数でわいわいして、後半は基礎練をメインに、文学や小説の話をしながら有名な演劇の脚本などを漁る生活をすることになった。
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高校一年生の時だったろうか。
中島らもさんの小説、『ガダラの豚』がとても凄い小説だ、と耳にしたのは。
僕が人生の中でもっとも読み返した回数の多い小説はその、『ガダラの豚』である。
未だに、一年に一回くらいは読み返す。
ラストに至る時の主人公の設定と展開が漫画みたいなチープさはあるのだが、それは全く気にならないほどに、『ガダラの豚』は素晴らしい小説である。
中学高校時代、僕は詩を書いていたのだが、衝撃を受けて小説を本格的に書きたい、と思い至ったきっかけの小説は、中島らもさんの『超老伝』である。
僕と『超老伝』の出会いは、高校三年の冬、埼玉県に行った時であるから、今回の話のずっとあとのことだ。
その『超老伝』は、カポエラ使いの爺さんが弟子たちとともに戦っていく小説……のように見えなくもない、不思議なテイストの小説で、漫画っぽいけど漫画にしたら味がなくなるタイプの作品である。
実にらもさんらしい小説である。
中島らもさんと言えば『今夜、すべてのバーで』など、のちに読んでいく本がたくさんあるのだが、僕は、友人のギンと渋谷宇田川町のタワレコに行った折り、その〈凄い〉と言われていた小説の作者、中島らもさんが結成したバンド、ピスのファーストミニアルバム『ドント・ピス・アラウンド』を、インディーズのコーナーで見つけて、買ったことがトピックとしては大きい。
衝撃を受けたのだ。
作詞作曲、そして編曲の要となる〈リフ〉を中島らもさん本人がつくって、ボーカルとバッキングギターもらもさん本人が担当しているのだが、これがめちゃくちゃ格好良いのである。
なお、らもさんの本を読んで、あとで知ることになるのだが、この『ドント・ピス・アラウンド』は200枚しか売れなかったうえに、中島らもさんの担当編集者は、僕の年上の知り合いである……と、いうかもはや師匠であった打海文三氏の担当編集者と同一人物なのであった。
僕は中島らもさんのような〈ロックな存在〉になりたいと思った。
最高にロックな存在がらもさんだ、と僕は思ったし、それは今でも思っていて、だから未だに『ガダラの豚』を読み返す。
らもさんはコピーライターからそのキャリアを始めるが、小説家であり、ロックミュージシャンであり、そして……劇団「リリパット・アーミー」を主宰する脚本家であった。
そこで、僕が夜な夜なギター弾きながら歌い、文章を書くことだけでなく、演劇という線でも、僕の頭の中では、らもさんと自分のしている活動が接続された。
ここで、僕が演劇をやる、ということが自分の中で正当化されたのである。
〈次回へつづく〉