第116話 光について【4】

文字数 744文字

 ずぎゃ、ずぎゃ、という歪ませた音を出す。
 セミアコのギター・グレッチをストロークさせながら、僕はゼンハイザーのマイクに向かって、がなる。
 NIRVANAのコピーから、バンドは始まった。
 曲は『BREED』。
 もちろん、『スメルズ・ライク・ティーン・スピリット』も。
 エフェクターは、RAT-2とクロマチックチューナーのみ。
 ローランド・ジャズコーラスのアンプから鳴らす。
 マーシャルも良いが、歌いながらならば、ジャズコーラスが良い。
 僕はそのとき、無頼派の、歌う詩人だった。







「ラーメン修業に来たんだってな?」
「はい? 違います」
「照れるこたぁねぇよ」
 甲州街道沿いのラーメン屋で、僕は働こうとした。
 そうしたらラーメン修業に来たのと勘違いされ、こき使われた。
 働いている深夜。
 店のラジオからは福山雅治のオールナイトニッポンが流れている。
 福山は言う。
「フェラーリしちゃう? ぶぅーん、ぶぅーん、ぶぅ〜〜〜〜ん」
 よくわからない。
 だが、福山本人の声だ。
 働いていると、女優さんが食べに来た。
 笑っていいとも、に出演している女優さんだ。
 冷静に考えてみると、ここは世田谷区だが、甲州街道をそのまま直進すると、笑っていいともを収録している、新宿アルタ前に到着するのだ。
 食べに来ても、なんら不思議はない。

「最近、新宿にも行ってないなぁ」
「おい新入り。口じゃなく手を動かせ」
「へーい」
 そこに福山の声。
「フェラーリしちゃおうよぉ!」
 福山はどうやら口でしているようですが?
 いや、ラジオを、だけどね?

 でも、ラーメン修業はしないので、ということで断って、僕は本屋にバイトをくら替えすることにするのだ。
 バイトジプシーってわけでもないが、その頃の僕は、長続きしない奴だった。




〈次回へつづく〉
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成瀬川るるせ:語り手

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